「結婚の予定はありますか」「お子さんは何人欲しいですか」——一人の面接官がこうした質問を繰り返していた場合、2026年10月1日以降は、企業としての責任が問われる可能性があります。改正男女雇用機会均等法により、求職者に対するセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)の防止措置が、事業主の法的義務になるためです。この記事では、何が変わるのか、そして義務を怠った場合にどのような結果が待っているのかを解説します。

この記事でわかること

  1. 2026年10月1日、何が義務化されるのか
  2. 具体的にどんな質問・言動が問題になるのか
  3. 「一人の面接官の問題」では済まされない理由
  4. 義務を怠った場合、企業に何が起こるのか——罰則と企業名公表
  5. 対象となる範囲の広さに注意
  6. 企業が今からやるべきこと

2026年10月1日、何が義務化されるのか

2025年6月に公布された改正男女雇用機会均等法により、2026年10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が、事業主の法的義務になります。改正法には新たに条文が設けられ、これまで「自社が雇用する労働者」だけを対象としていたセクハラ防止の義務が、まだ社員ではない求職者にも拡大されることになりました。

対象となる行為者は、自社の役員・従業員です。「求職者に対してセクハラを行わないよう防止する」という措置を、企業規模を問わず、すべての事業主が講じなければなりません。


具体的にどんな質問・言動が問題になるのか

今回の義務化で問題となるのは、面接の場で実際によく見られる、次のような質問・言動です。

❌ セクハラに該当し得る質問・言動の例
「結婚の予定はありますか」
「お子さんは何人欲しいですか」
「彼氏・彼女はいますか」
容姿や体型への言及
必要のない食事やプライベートな連絡先の要求

これらは、これまでも就職差別・不適切な質問として問題視されてきましたが、今回の法改正により、企業の法的な防止義務違反として、より明確に扱われることになります。


「一人の面接官の問題」では済まされない理由

たとえば、ある一人の面接官が、女子学生に対して結婚予定や欲しい子どもの人数を繰り返し質問していたとします。この場合、問題となるのはその面接官個人だけではありません。

改正法のもとでは、企業が防止措置を適切に講じていたかどうかが問われます。方針を明確にし、面接官に周知し、相談窓口を整えていたか——こうした組織としての対応が不十分であれば、「一人の面接官の問題」ではなく「企業の管理責任の問題」として扱われることになります。


義務を怠った場合、企業に何が起こるのか——罰則と企業名公表

今回の防止措置義務には、違反そのものに対する刑事罰(罰金・懲役)は設けられていません。しかし、それで安心はできません。

1
厚生労働大臣による報告徴収・助言・指導・勧告
防止措置が不十分と判断されると、まず行政からの指導が行われます。
2
勧告に従わない場合、企業名が公表される
改正法により、勧告に従わなかった企業は、その事実を公表される可能性があります。
3
報告拒否・虚偽報告には過料
行政からの報告要求に応じない、あるいは虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が科される可能性があります。

刑事罰がないからといって、軽視できるものではありません。企業名が公表されれば、厚生労働省のウェブサイトや報道を通じて社会に広く知られることになります。採用活動への悪影響はもちろん、既存の取引先・顧客からの信頼にも関わる、大きなレピュテーションリスクです。


対象となる範囲の広さに注意

今回の義務化で対象となる「求職活動等」の範囲は、採用面接だけにとどまりません。

採用面接
会社説明会
インターンシップ
教育実習・看護実習等の実習
SNSなどオンラインを介したやり取り

被害者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず、同性間のものも含めて対象となります。面接という限られた場面だけでなく、採用活動全体を通した対応が求められている点に注意が必要です。


企業が今からやるべきこと

□ 「セクハラを行ってはならない」という方針を、就業規則等に明記し周知する
□ 面接官・リクルーター・OB/OG訪問対応者を含め、採用に関わる全員に研修を行う
□ 求職者が相談できる窓口を用意し、周知する(人事担当者以外の窓口も検討する)
□ 万一発生した場合の、迅速な事後対応のルールを整備する
□ 施行日(2026年10月1日)までに、体制の点検を終えておく

「うちの面接官に限って、そんなことはしない」という思い込みが、最もリスクの高い状態です。悪意のない一言が、本人も気づかないまま繰り返され、問題化するケースは少なくありません。


まとめ:「知らなかった」では済まされない

結婚予定や子どもの人数を尋ねる質問は、これまでも避けるべきとされてきましたが、2026年10月1日以降は、企業の法的な防止義務違反として、行政指導や企業名公表につながるリスクを伴います。刑事罰がないことに油断せず、企業名公表というレピュテーションリスクの重さを正しく認識し、施行日までに社内体制を整えておくことが求められています。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。ハラスメント防止・面接官トレーニングを中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。