「来月から面接官をお願いしたい」——そう言われた瞬間、多くの人の頭に浮かぶのは喜びよりも不安です。何を聞けばいいのか。何を見ればいいのか。誰からも教わっていないのに、人の人生を左右する判断をしなければならない——これが、初めて面接官になった人が最初にぶつかる、共通の壁です。この記事では、面接官1年目が抱える典型的な悩みと、その壁を越えるための最初の一歩を解説します。

この記事でわかること

  1. 初めての面接官が必ずぶつかる5つの壁
  2. なぜ「教わらないまま」面接官になる人が多いのか——研修現場で見えてきた驚きの実態
  3. 壁①:何を質問すればいいかわからない
  4. 壁②:候補者の話をどう評価すればいいかわからない
  5. 壁③:候補者に「選ばれる」面接ができているか不安
  6. 壁④:自分の判断に自信が持てない
  7. 壁⑤:合否の基準が自分の中で揺れる
  8. 面接官1年目が、まず身につけるべき2つの視点

初めての面接官が必ずぶつかる5つの壁

面接官という仕事は、不思議な仕事です。会社にとって極めて重要な「人を見極める」役割を担うにもかかわらず、多くの企業では、面接官になるための専門的な研修や教育がほとんど行われていません。

営業であれば営業研修があり、マネジメントであれば管理職研修があります。しかし面接官については、「とりあえず先輩に同席してもらって、見て覚えてください」という形で、実質的な準備なしに現場に放り込まれるケースが非常に多いのです。

そのため、初めて面接官になった人は、ほぼ例外なく次の5つの壁にぶつかります。

1
何を質問すればいいかわからない
志望動機・自己PR以外に、何を聞けば候補者の本質が見えるのかがわからない。
2
候補者の話をどう評価すればいいかわからない
「いい話だな」と思っても、それが本当に評価していい話なのか、判断基準がない。
3
候補者に「選ばれる」面接ができているか不安
自分が候補者の入社意欲を下げてしまっているのではないか、という心配。
4
自分の判断に自信が持てない
「この人を推薦していいのか」「自分の見立てが間違っていないか」という不安が常に残る。
5
合否の基準が自分の中で揺れる
候補者によって評価の厳しさが変わってしまい、「これでいいのか」という違和感がある。

なぜ「教わらないまま」面接官になる人が多いのか——研修現場で見えてきた驚きの実態

私はこの6年ほど、面接官トレーニングのセミナーや企業研修を、日本全国で行っています。その中で、毎回必ず受講者にこう尋ねています。

「会社や上司から、面接のやり方を体系的に教えてもらったことがありますか?」

この質問に対して「はい」と答える人は、受講者全体のわずか1パーセント程度です。残りの99パーセントの方々は、面接官という重要な役割を任されながら、教わる機会を一度も持っていないのです。

これは、研修先の業種・規模を問わず、ほぼ毎回同じ結果になります。「面接は誰でもできるもの」という思い込みが、日本企業の中に広く根付いていることの証拠だと、私は考えています。

私自身も、その99パーセントの一人でした

正直にお話しすると、私自身も管理職になりたての頃、面接のやり方を誰からも教えてもらったことがありませんでした。評価基準もなければ、質問の型もない。完全に自分の感覚だけで、面接を行い、採用を決めていました。

その結果——明らかに採用ミスだったと言える人材を、何人も採用してしまいました。

面接の場では、それなりに良い印象を持って「この人なら大丈夫だろう」と判断したはずでした。しかし入社後、期待していたパフォーマンスとは大きくかけ離れていく。そしてその方々のほとんどが、最終的に会社を去っていきました。

当時の私は、「縁がなかった」「本人の問題だ」と考えていました。しかし今振り返れば、それは候補者の問題ではなく、「教わらないまま、感覚だけで面接をしていた自分自身」の問題だったと、はっきり言うことができます。

面接の精度を欠いたまま採用が続くと、本人にとっても、会社にとっても、誰のためにもならない結果を生みます。早期離職は、採用にかけたコストの損失だけでなく、本人のキャリアにとっても大きな痛手になります。私が経験した「採用ミス」は、誰も望んでいなかった、避けられたはずの結果だったのです。

「教わらない」が生み出す構造的な問題

私自身の経験と、6年間の研修現場で見えてきたことを重ねると、次のような構造が見えてきます。

「教わらないまま面接官になる」3つの背景

「面接は誰でもできる」という思い込み——日常会話の延長と捉えられ、専門スキルとして認識されていない
面接官研修にコスト・時間を割く文化がまだ薄い——営業研修やリーダー研修に比べて優先度が低く見られがち
「先輩の見て覚える」が伝統的なOJTスタイル——属人的な面接スタイルがそのまま継承され続けてしまう

この結果、面接官それぞれが「自分なりのやり方」で面接を行い、評価基準がバラバラになり、採用の精度が安定しないという問題が、多くの企業で繰り返されています。私が経験した採用ミスも、まさにこの構造の中で起きたものでした。

つまり、今あなたが感じている不安は、あなた個人の能力の問題ではなく、「準備なしに現場に立たされる」という仕組みの問題なのです。これに気づくことが、最初の壁を越えるための、実は一番大切な一歩です。


壁①:何を質問すればいいかわからない

初めての面接官が最初にぶつかるのが、この壁です。「志望動機を教えてください」「自己PRをお願いします」——テンプレート的な質問はいくつか知っていても、その先、何を聞けば候補者の本質に近づけるのかがわかりません。

多くの初心者面接官は、候補者の「話の内容」だけを聞いて、印象だけで判断してしまいます。「いい話をしてくれたな」「ハキハキしていて好印象だな」——これだけでは、入社後の実際の働き方を予測することはできません。

この壁を越えるための最初の一歩は、「印象を聞く質問」から「行動を聞く質問」に切り替えることです。「困難をどう乗り越えましたか」ではなく、「その時、具体的にどんな行動を取りましたか」と聞くことで、候補者の本当の行動特性が見えてきます。


壁②:候補者の話をどう評価すればいいかわからない

質問ができるようになっても、次の壁が現れます。「候補者が話してくれた内容を、どう評価すればいいのか」という壁です。

同じ「リーダーシップがあります」という発言でも、候補者によって裏付けとなる経験の質はまったく違います。評価基準が自分の中になければ、「なんとなく良さそう」という曖昧な判断に頼ることになります。

評価の壁を越えるための視点

「その経験は、自社のどんな業務・場面で再現できそうか」を考えながら聴く。「いい話だった」で終わらせず、「自社で同じことが起きたら、どう行動するか」まで想像してみることが、評価の質を高める第一歩です。


壁③:候補者に「選ばれる」面接ができているか不安

「見極めなければ」という意識が強くなりすぎると、面接官はいつの間にか「審査する側」という立場に偏りすぎてしまいます。しかし面接は、企業が候補者を選ぶだけの場ではありません。候補者も、面接官や企業を「選んでいる」のです。

初めての面接官は、このバランスに気づかないまま、「見極めること」だけに集中してしまいがちです。結果として、候補者が「この面接官、この会社、なんだか冷たいな」と感じ、選考辞退・内定辞退につながることもあります。

面接は「見極め」と「動機づけ」の両方が同時に行われる場です。「この人を採用すべきか」を判断しながら、同時に「この人に入社したいと思ってもらえるか」も考える——この二重の視点を持つことが、面接官として欠かせない意識です。


壁④:自分の判断に自信が持てない

面接が終わったあと、「この人を推薦していいのだろうか」という迷いが残ることは、初心者面接官に共通する感覚です。判断の根拠が自分の中で整理されていないと、自信を持って評価を伝えることができません。

この不安を減らす方法は、「感覚」を「言葉」に変える習慣を持つことです。「なんとなく良かった」と感じたら、「具体的に何が良かったのか」を自分自身に問いかけてみる。この振り返りの積み重ねが、判断への自信を少しずつ育てていきます。


壁⑤:合否の基準が自分の中で揺れる

面接を重ねるうちに、「今日は厳しく評価してしまったかもしれない」「あの候補者には甘かったかもしれない」という、評価のブレに気づくことがあります。これも、初めての面接官が必ず経験する壁です。

評価のブレは、「評価基準を事前に言語化していない」ことが主な原因です。面接前に「この職種に必要な行動特性は何か」を整理しておくことで、候補者ごとの評価のブレを減らすことができます。


面接官1年目が、まず身につけるべき2つの視点

5つの壁を見てきましたが、これらすべてに共通する、面接官として最初に身につけるべき視点は、次の2つに整理できます。

①見極め
の視点
候補者の「印象」ではなく「行動の事実」に基づいて、入社後の成果を予測する視点。質問・評価基準を事前に整理し、判断のブレを減らす。
②動機づけ
の視点
面接そのものが、候補者にとって「この会社に入りたい」と思える体験になっているかを意識する視点。見極めと同時に、候補者の入社意欲を育てる関わり方を心がける。

「見極め」と「動機づけ」——この2つの視点を両立できる面接官が、結果として採用の精度を高め、優秀な人材から「入社したい」と思ってもらえる面接官になります。これは決して特別な才能ではなく、誰でも学び、身につけられるスキルです。


まとめ:最初の壁は、誰もが通る道

初めて面接官になったとき感じる不安・迷い・自信のなさは、決して特別なものではありません。多くの面接官が、教わらないまま現場に立たされ、同じ壁にぶつかってきました。

大切なのは、その不安を「自分の能力不足」と捉えるのではなく、「正しい視点と方法を知れば、必ず越えられる壁」と捉えることです。「見極め」と「動機づけ」、この2つの視点を意識することから、面接官としての一歩を始めてみてください。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。面接官トレーニング・採用力強化・傾聴力・コーチング・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。2026年8月、著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』を発売予定。