「お前がいいと思う人をあげてくれればいいよ」——私が初めて面接を担当した際に上司から言われた言葉です。当時はそんなものかと思っていましたが、今から考えるとこれこそが採用ミスの根源だと断言できます。日本の採用面接は長年、「学歴が良い」「なんとなく感じがいい」という曖昧な基準で行われてきました。なぜそうなったのか。そして何が変わり、何がいまだに変わっていないのか——この記事で掘り下げます。

この記事でわかること

  1. 「お前がいいと思う人を」——初めての面接で受けた驚きの体験
  2. 高度成長期の「学歴重視面接」はなぜ機能したのか
  3. バブル崩壊と「失われた30年」が面接に与えた変化
  4. 「コンピテンシー面接」とは何か——学歴重視との決定的な違い
  5. なぜ日本の面接は「なんとなく良さそう」から脱却できないのか
  6. 面接官が今すぐ変えるべきこと

「お前がいいと思う人をあげてくれればいいよ」——初めての面接での驚き

私が管理職になり、初めて採用面接を担当することになったときのことです。どう面接をすればいいのかわからず、当時の上司に尋ねました。

私の問いかけ

「面接では、どうすればいいんですか?何を見ればいいんですか?」

上司の答えはこうでした。

「お前がいいと思う人をあげてくれればいいよ」

当時の私は「そんなものか」と思いました。面接の仕方を体系的に教わることもなく、評価基準も明確にされないまま、「自分がいいと思った人」を推薦するという、極めて属人的なやり方で採用が行われていたのです。

しかし今から振り返ると、これこそが採用ミスの根源だと確信しています。

「いいと思う人」の基準は人によって違います。外見が良い人、話が上手な人、自分と気が合う人、出身大学が有名な人——面接官の主観と好みで採否が決まってしまう。これでは採用の質が安定するはずがありません。そして「なんとなくいいと思って採用したが、入ってみたら思っていた人と違った」という採用ミスが繰り返されることになるのです。

なぜこのような面接が長年にわたって「当たり前」として続いてきたのか。そこには日本社会・日本経済の歴史的背景があります。


高度成長期の「学歴重視面接」はなぜ機能したのか

1960〜80年代の高度経済成長期、日本企業の採用面接は今とは根本的に異なる前提の上に成り立っていました。

当時の面接の特徴

学歴・出身大学が最重要の選考基準
「東大・早慶なら優秀なはず」「有名大学出身であれば地頭がいい」という前提のもと、出身校と成績を中心に採否を判断。面接は「人柄の最終確認」程度の位置づけだった。
「即戦力」を求めない長期育成の前提
入社後5〜10年かけてゆっくり育てればいい、という余裕があった。「素材のいい人材を採って、社内で鍛える」という発想のもと、入社時点のスキルや実績よりも「ポテンシャル」が重視されていた。
終身雇用・年功序列が前提
一度入社すれば定年まで働く。採用の失敗が表に出るまでに時間がかかり、採用プロセスへの問題意識が持ちにくかった。「採用ミスのツケ」が表面化するのが何十年も先だったため、採用の精度を高める動機が弱かった。
企業が「選ぶ側」の完全な買い手市場
高度成長期は企業の業績が安定・拡大し続け、就職希望者も多かった。企業が圧倒的に優位な「選ぶ側」だったため、丁寧な面接設計をしなくても採用には困らなかった。

なぜこの時代は「なんとなく面接」でも機能したのか

安定成長・終身雇用・長期育成・買い手市場——これらの条件が揃っていたからです。採用を多少ミスしても、長い時間をかけて「育て直す」余裕が企業にあった。また、経済全体が右肩上がりのため、多少の採用の失敗は企業業績の成長でカバーできた。「なんとなくいいと思った人を採る」面接でも、大きな問題が表面化しなかっただけなのです。


バブル崩壊と「失われた30年」が面接に与えた変化

1991年のバブル崩壊以降、日本経済は長期停滞に入ります。企業を取り巻く環境が根本から変わり始め、採用に対する考え方にも変化が迫られていきました。

1991年〜
バブル崩壊
企業業績が急激に悪化。採用数を大幅に絞り込む就職氷河期が始まる。限られた採用枠に多くの応募者が殺到し、「良い人を見極める」面接の重要性が高まり始めた。
2000年代〜
即戦力化
長期育成の余裕が失われ、「入社後すぐに成果を出せる人材」への需要が高まる。学歴よりも「何ができるか・何をやってきたか」を問う採用へとシフトし始める。
2010年代〜
多様化・競争激化
グローバル競争の激化・テクノロジーの急進・人材流動化が加速。「過去の実績・行動特性から将来の成果を予測する」コンピテンシー面接が本格的に普及し始める。
2020年代〜
人材不足・即戦力
少子化による人材不足が深刻化。新卒であっても即戦力性を問われる時代に。採用の失敗が直接経営ダメージにつながるため、面接精度への要求がさらに高まっている。

「コンピテンシー面接」とは何か——学歴重視との決定的な違い

コンピテンシー(Competency)とは、高い成果を生み出す人材に共通して見られる行動特性・思考パターンのことです。コンピテンシー面接とは、候補者の「過去の具体的な行動・経験・結果」を深く掘り下げることで、入社後の成果を予測しようとする面接手法です。

比較項目 学歴重視・印象重視の面接 コンピテンシー面接
評価の根拠 学歴・外見・話し方の印象 過去の具体的な行動・経験・結果
主な質問 「学生時代に頑張ったことは?」「弊社を志望した理由は?」 「そのとき具体的にどう行動しましたか?」「どんな困難があり、どう乗り越えましたか?」
判断の基準 「なんとなくいい感じ」「うちに合いそう」 事前に定めた評価基準・コンピテンシーへの合致度
採用ミスのリスク 高い(面接官の主観・好みに左右される) 低い(行動事実に基づく客観的な判断)
面接官の役割 雰囲気を見て直感で判断する 深掘り質問で行動事実を引き出し、基準に照らして評価する

コンピテンシー面接の質問の例

「課題解決力」を測るコンピテンシー質問の例

「これまでの仕事・学生生活の中で、最も困難だった課題は何でしたか?」
「(深掘り)そのとき、具体的にどんな行動を取りましたか?」
「(深掘り)どんな壁がありましたか?どうやって乗り越えましたか?」
「(深掘り)その結果、どんな成果が出ましたか?数字で言えますか?」
「(深掘り)もし今同じ場面になったら、何を変えますか?」

コンピテンシー面接のポイントは、「過去の具体的な行動事実」を徹底的に引き出すことです。「〜だと思います」「〜のつもりです」という抽象的な答えでは評価できません。「いつ・どこで・誰と・何をして・どんな結果になったか」という事実を確認することで、初めて入社後の行動を予測できます。


なぜ日本の面接は「なんとなく良さそう」から脱却できないのか

コンピテンシー面接の重要性は広く知られるようになりました。しかし日本の多くの企業では、いまだに「なんとなく感じがいい」「うちの社風に合いそう」という印象ベースの面接が続いています。なぜでしょうか。

1 面接官が「面接のやり方」を教わっていない

私が初めて面接を担当したときに「お前がいいと思う人を」と言われたように、面接官になっても誰も教えてくれないという現状が広く存在します。管理職になればある日突然「面接を担当してください」と言われ、何の研修も評価基準の共有もないまま、自己流で面接をすることになる。これが採用ミスを生む最大の構造的原因です。

2 「感覚で採用してきた」成功体験が邪魔をする

長年「なんとなくいいと思った人を採用してきて、それほど大きな問題はなかった」という経験を持つベテラン管理職・経営者は少なくありません。その成功体験が「感覚的な面接でも大丈夫」という思い込みを強化し続けます。しかし実際には、採用ミスによるコストは表面化しにくいだけで、確実に組織のどこかで損失として現れています。

3 評価基準を言語化することへの不慣れ

コンピテンシー面接を設計するには、「自社が求める人物像・行動特性」を具体的な言葉で定義する作業が必要です。この「求める人物像の言語化」が苦手な組織が多いのが現実です。「元気があって前向きな人」「うちの社風に合う人」——こうした曖昧な表現のままでは、面接官によって評価がバラバラになります。

4 「高度成長期の文化」が組織の中に残っている

経済が右肩上がりだった時代に面接を経験してきた世代が、今も面接官・経営者として現場にいます。「学歴が良くて、感じのいい人を採る」という当時の価値観がアップデートされないまま、現在の面接に持ち込まれているケースが少なくありません。時代は変わっても、面接の「文化」が変わっていない——これが「なんとなく良さそう面接」が続く根本的な理由です。

採用ミスのコストは想像以上に大きい

採用担当者に1名を採用するまでにかかるコスト(求人広告・面接工数・研修費等)は、新卒で50〜100万円以上とも言われます。さらに入社後に「思っていた人と違った」となった場合の教育コスト・生産性損失・退職後の再採用コストまで含めると、採用ミス1件のコストは数百万円規模になることもあります。「なんとなく面接」のコストは、実は非常に高いのです。


面接官が今すぐ変えるべきこと

「なんとなく面接」から脱却するために、今すぐできることを整理します。

①「何を見るか」を面接前に言語化・共有する

面接に入る前に、「この面接で何を評価するのか」「どんな行動特性を持つ人を合格にするのか」を具体的な言葉で定義します。評価基準が言語化されていないと、面接官の「好み」が採否を決めることになります。複数の面接官が評価する場合は、事前に評価基準を共有しておくことが必須です。

②「抽象的な答え」で終わらせない

「頑張りました」「チームワークを大切にしました」——こうした抽象的な言葉で評価を止めてはいけません。「具体的にどんな行動を取りましたか?」「そのとき何が一番難しかったですか?」と深掘りを続けることで、初めてその人の本当の行動特性が見えてきます。

③「好き嫌い」と「評価」を分ける

面接官として最も気をつけるべきは、「自分と気が合いそう」「なんとなく好き」という感覚で評価を歪めないことです。自分と似たタイプを高く評価し、異なるタイプを低く評価してしまう「類似性バイアス」は、面接において最も起きやすい認知の歪みです。評価基準に照らして行動事実を判断する習慣が、このバイアスを防ぎます。

④面接官自身が「面接スキル」を学ぶ

「お前がいいと思う人を」という指示だけで面接に臨ませてはいけません。面接官には、評価基準の設定・深掘り質問の技術・バイアスの認識・評価の記録方法など、専門的なスキルが必要です。面接官研修への投資は、採用の質を高め、採用ミスのコストを減らす最も効果的な施策のひとつです。


まとめ:「お前がいいと思う人」では、もう通用しない

「お前がいいと思う人をあげてくれればいいよ」——この言葉は、高度成長期の豊かさと余裕の中で生まれた面接文化の産物です。長期育成の余裕があり、採用を多少ミスしても経済成長が補ってくれた時代には、それでも回っていました。

しかし今は違います。失われた30年を経て、企業は新卒であっても即戦力を求める時代になりました。採用ミスは直接的な経営ダメージになり、優秀な人材は「面接の質」を敏感に感じ取って企業を選びます。

学歴重視から印象重視へ、そして行動事実に基づくコンピテンシー重視へ——面接の進化は止まりません。しかし多くの日本企業では、面接の「文化」がその進化に追いついていないのが現実です。

まず「面接官に評価基準を示す」「深掘り質問のスキルを磨く」という小さな一歩から始めてください。採用の質が変われば、組織の未来が変わります。

あわせて読みたい記事


面接官のスキルを組織として高めたい方へ

面接官トレーニング研修の導入、個人での動画学習、無料相談など、目的に合わせてご活用ください。

面接官トレーニング
研修の詳細を見る
研修・講演の
無料相談をする
Udemy(動画)
講座はこちら

田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。面接官トレーニング・採用力強化・傾聴力・コーチング・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。