「1on1をやっているんですが、部下が話してくれなくて……結局、仕事の打合せみたいになってしまいます」——管理職研修でこの悩みを耳にしない回はありません。1on1を導入したのに効果が出ない。部下が心を開いてくれない。何を話せばいいかわからない。これらの悩みの多くは、1on1の「目的」と「進め方」を知らないことから来ています。この記事では、現場の声をもとに、部下が本音で話してくれる1on1の進め方を解説します。

この記事でわかること

  1. 研修現場で毎回出てくる「1on1の悩み」——体験談
  2. そもそも1on1とは何か——「仕事の打合せ」との根本的な違い
  3. なぜ部下は1on1で話してくれないのか
  4. 「仕事の打合せ」になってしまう3つの原因
  5. 部下が本音で話してくれる1on1の進め方
  6. 1on1で使える「問いかけ」の例
  7. 管理職が1on1前に準備すべきこと

研修現場で毎回出てくる「1on1の悩み」——体験談

私が管理職向けの研修を行うとき、冒頭で必ずこんな問いかけをします。

「今、マネジメントや部下とのコミュニケーションで、どんなことにお悩みですか?」

すると、どの会社・どの業種の受講者も、ほぼ必ずと言っていいほど「部下とのコミュニケーション」が悩みの上位に挙がります。

そしてそのなかに、必ずこういった声があります。

「1on1をやっているんですが、部下が全然話してくれないんです」
「何を話せばいいかわからなくて、結局仕事の打合せみたいになってしまいます」
「どうすれば部下が本音を話してくれるようになりますか?」

1on1は今や多くの企業で導入されています。しかし「やっている」と「機能している」は全く別物です。形だけの1on1は、管理職にとっても部下にとっても、ただの時間の消費になってしまいます。

これは決して管理職の努力が足りないのではありません。「1on1とは何か」「どう進めるのか」を誰も教えてくれていないことが原因なのです。


そもそも1on1とは何か——「仕事の打合せ」との根本的な違い

まず、1on1の本来の目的を確認することが大切です。

  仕事の打合せ・進捗確認 1on1の本来の目的
主役 上司(確認・指示する側) 部下(話す・考える側)
話題の中心 業務の進捗・課題・数字 部下の気持ち・悩み・成長・キャリア
上司の姿勢 「伝える・確認する・指示する」 「聴く・引き出す・支援する」
成果 業務の確認・問題の把握 信頼関係・モチベーション・自律的成長

1on1の主役は部下です。上司が話す場ではなく、部下が安心して本音を話し、自分の課題や気持ちを整理できる場です。

1on1の目的は大きく3つあります。

  • 信頼関係の構築
    「この上司には本音を言える」という心理的安全性を育てること。
  • 部下の成長支援
    部下自身が課題・目標・学びを言語化し、自律的な成長を促すこと。
  • 早期の問題発見・離職防止
    悩み・モヤモヤ・職場への不満を早期に把握し、手を打てること。

なぜ部下は1on1で話してくれないのか

「部下が話してくれない」と悩む管理職は多いですが、部下の側から見るとどうでしょうか。部下が1on1で話しにくくなる理由には、次のようなものがあります。

「何を話せばいいかわからない」
1on1の趣旨を知らない部下は、「上司に呼ばれた=何か問題があったのか」と構えてしまう。自由に話していい場だと理解していないため、当たり障りのない返事に終始する。
「言ったことが評価に影響するかもしれない」という不安
「仕事が辛い」「チームに合わない人がいる」という本音を言ったとき、上司がどう受け取るかわからない。評価が下がるかもしれない、という恐怖が本音を封じる。
「話しても変わらない」という諦め
過去に悩みを相談しても「そういうもんだよ」「頑張れ」で終わった経験があると、「どうせ話しても意味がない」という感覚が定着してしまう。
上司がずっと話していて、話す隙がない
「1on1」のつもりが、上司が業務の話・アドバイス・自分の昔話を延々としてしまい、部下が話す時間が物理的になくなっているケースも少なくない。

つまり、「部下が話してくれない」原因の多くは、部下ではなく、1on1の設計と上司の関わり方にあります。


「仕事の打合せ」になってしまう3つの原因

1 目的の勘違い——「進捗確認の場」だと思っている

最も多い原因は、1on1を「定期的な進捗確認・業務報告の場」だと誤解していることです。上司が「今週どう?」「あの案件はどうなってる?」と聞き始めると、部下も「はい、〇〇は先週から……」と業務の話に引っ張られます。その結果、30分が業務の打合せで終わってしまいます。

よくある「1on1の最初の一言」NG例

「今週の進捗どう?」→ 業務の打合せになる
「何か問題ある?」→ 「特にないです」で終わる
「最近どう?」→ 漠然としすぎて部下が困る

2 上司が話しすぎている——アドバイス・指示・昔話

「1on1で何かアドバイスをしなければ」という義務感から、上司が延々と話してしまうパターンです。部下が少し悩みを口にした瞬間に「それはね、こうすればいいんだよ」とアドバイスが始まる。部下は「聴いてもらえなかった」と感じ、次第に話さなくなります。

1on1での理想の話す比率:上司2〜3:部下7〜8

3 心理的安全性が育っていない——信頼関係が浅い

1on1を始めたばかりの時期は、部下がなかなか本音を話してくれないのは当然です。信頼関係は一度の1on1では生まれません。「この上司に話しても大丈夫だ」という安心感は、毎回の積み重ねの中で少しずつ育まれるものです。焦らず継続することが最も重要です。


部下が本音で話してくれる1on1の進め方

では、どうすれば部下が本音で話してくれる1on1になるのか。実践的な進め方を解説します。

ステップ①:事前に「この場の目的」を部下に伝える

1on1を始める前に、部下に1on1の趣旨をきちんと伝えておくことが大切です。「この時間はあなたのための時間です。仕事の話でなくても構いません。気になっていること・感じていること・将来のことなど、何でも話してください」と明示することで、部下は「何を話してもいいんだ」と安心できます。

ステップ②:最初の問いかけで「場の温度」を決める

1on1の最初の一言が、その場の雰囲気を決めます。業務の話から入ると業務の打合せになります。「最近、仕事で一番楽しいと感じていることは何ですか?」と聞くと、自然と部下の気持ちの話に向かいます。

場の温度を上げる「最初の問いかけ」の例

「最近、仕事で楽しいと感じていることはありますか?」
「今週、一番印象に残ったことを教えてもらえますか?」
「最近どんなことが気になっていますか?仕事でも、それ以外でも」
「今日は何でも話せる時間にしたいんですが、最近どうですか?」

ステップ③:「聴く」に徹する——アドバイスは最後

部下が話し始めたら、まずとことん聴きます。うなずく、相槌を打つ、要約して返す。「それはどういうことですか?」「もう少し聞かせてもらえますか?」と深掘りする。アドバイスや意見は、部下が十分に話し切ってから。途中で割り込まない、解決策を急がない——これが1on1で最も大切な姿勢です。

ステップ④:「どうしたいか」を部下に考えさせる

課題や悩みが出てきたとき、すぐに「こうすればいい」と答えを渡してはいけません。「あなたはどうしたいと思いますか?」「どうなれば理想ですか?」と問いかけ、部下自身に考えさせる。これがコーチングの本質であり、自律的な成長につながります。上司の答えを押しつけると、部下は「考える必要がない」と学習してしまいます。

ステップ⑤:最後に「次のアクション」を一緒に決める

1on1の終わりに、「じゃあ、次回までに〇〇を試してみましょうか」と小さな行動目標を一緒に決めます。「話して終わり」では記憶に残りにくく、変化も起きにくい。アクションを決めることで、1on1が「変化を生む場」になります。


1on1で使える「問いかけ」の例

テーマ別に、1on1で使いやすい問いかけをまとめます。そのまま使えるものをピックアップしました。

気持ち・状態
を聴く
「最近、仕事でエネルギーが湧いていることは何ですか?」
「逆に、最近モヤモヤしていることはありますか?」
「今の仕事のペース・量は自分に合っていますか?」
成長・学び
を聴く
「最近、自分が成長したと感じた場面はありましたか?」
「今、一番力をつけたいスキルは何ですか?」
「もっとこういうことを経験したい、ということはありますか?」
課題・悩み
を聴く
「今、仕事で一番難しいと感じていることは何ですか?」
「もし一つだけ変えられるとしたら、何を変えたいですか?」
「私(上司)にできることで、何かサポートできることはありますか?」
キャリア
を聴く
「3年後、どんな仕事をしていたいですか?」
「今の仕事で、将来に活かせると感じていることはありますか?」
「自分らしく働けていると感じていますか?」
関係・環境
を聴く
「チームの雰囲気はどう感じていますか?」
「私との関わり方で、こうしてほしいということはありますか?」
「仕事以外で、最近気になっていることはありますか?」

管理職が1on1前に準備すべきこと

「何も準備せずに1on1に臨む」管理職が多いですが、わずかな準備で1on1の質は大きく変わります。

  • 前回の1on1で話したことを振り返る
    「前回、〇〇について話してくれたけど、その後どうでしたか?」と聞けると、部下は「ちゃんと覚えていてくれた」と感じ、信頼感が増します。
  • 今日の「問いかけのテーマ」を一つ決めておく
    「今日はキャリアについて少し聞いてみよう」「今日はモチベーションについて聞こう」など、テーマを一つ持っておくと、話が深まりやすくなります。
  • 「今日の部下の状態」を事前に想像する
    「最近、あの部下は元気そうだったか」「先週少し顔色が悪かったな」などを思い浮かべることで、より本人に寄り添った問いかけができます。
  • スマホはしまう・PCを閉じる
    「ながら1on1」は厳禁です。部下への敬意として、その時間は部下だけに集中する。それだけで、1on1の質は大きく変わります。

1on1は「継続」が最大のコツ

1on1の効果は、1回では出ません。毎月・隔週など定期的に続けることで、部下は「この場は安全だ」と学んでいきます。最初の数回は沈黙があっても当然です。「続けること」が、信頼を育て、本音を引き出す最大の方法です。


まとめ:1on1は「聴く場」——まず部下の話を引き出すことから始める

「1on1が仕事の打合せになってしまう」——この悩みの根本は、1on1を「上司が確認・指示する場」と誤解していることにあります。

1on1の主役は部下です。上司の役割は「話す」ことではなく「引き出す」ことです。最初の問いかけを変えるだけで、1on1は変わり始めます。

管理職研修で必ず出てくるこの悩みは、決して「自分だけが下手くそだ」ということではありません。1on1の進め方を知らないまま「やれ」と言われているだけなのです。正しい目的と進め方を理解すれば、必ず変わります。

まず次の1on1から、最初の一言を変えてみてください。「今週の進捗どう?」ではなく——「最近、仕事で楽しいと感じていることはありますか?」から始めてみてください。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。1on1・コーチング・傾聴力・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。