「あの上司につかまると、また10分は取られる……」——部下にそう思われている上司が、あなたの職場にいませんか?あるいは、あなた自身がそう思われていませんか?話が長い・何を言いたいのかわからない・結論がいつまでも出ない——こうした話し方の癖は、部下の時間を奪い、信頼を少しずつ損なっていきます。この記事では、私自身が「部下」だった頃の体験を交えながら、伝わらない上司の話し方の特徴と、コンパクトに伝える技術を解説します。

この記事でわかること

  1. 「なるべく避けたい上司」になっていた——部下時代の体験談
  2. 「話が伝わらない」ことのマネジメント上のダメージ
  3. 部下に伝わらない上司の話し方——5つの特徴
  4. なぜ上司は話が長くなるのか——心理的な背景
  5. コンパクトに伝える——今日から使える話し方の技術
  6. 「また話しかけたい上司」になるために

「なるべく避けたい上司」になっていた——部下時代の体験談

私が部下として働いていた頃のことです。職場に、とても人柄のいい上司がいました。誠実で、部下思いで、悪意のかけらもない方でした。

ただ、一つだけ困ったことがありました。

話が、非常に長いのです。

「田中、ちょっといいか」と声をかけられると、そこから最低でも10分は取られます。最初は何の話なのかもわからないまま話が続き、途中で昔の経験談が入り、いくつかの脱線を経て、最後に「まあ、とにかくそういうことだから」という結論なのか結論でないのかわからない言葉で終わる。

忙しい仕事の最中につかまってしまうと、仕事の流れが完全に途切れてしまいます。

「またあの人につかまってしまった……」
「あの人が近づいてきたら、席を立ってトイレに行こう」
「廊下で見かけたら、わざと別の方向へ行こう」

私は、その上司を意識的に避けるようになりました。

その上司はいい人でした。それは間違いありません。しかし、今改めて振り返ると、この状況はマネジメント上、深刻な問題だったと気づきます。部下に「なるべく関わりたくない」と思われている上司は、チームを率いることができません。どれだけ人柄が良くても、話し方がその信頼を少しずつ削っていたのです。


「話が伝わらない」ことのマネジメント上のダメージ

「話が少し長いだけ」と思うかもしれません。しかし、話し方の問題は、仕事の効率や人間関係に想像以上の悪影響を及ぼします。

1
部下の貴重な時間が奪われる
10分の会話が1日2回あれば20分。月に20日勤務なら、400分=約6.7時間が「わからない話を聞く時間」に消えます。集中力が途切れるコストも加えると、ダメージはさらに大きい。
2
部下が上司を「避ける」ようになる
私がそうだったように、話が長い上司は次第に避けられます。すると、本来報告・相談すべきことが上司に届かなくなり、情報の断絶が生まれます。問題の早期発見ができなくなるという深刻なリスクです。
3
「何を言いたいのかわからない」上司への不信感
長い話の中に結論が見えないと、部下は「この人の指示に従えばいいのか」という判断ができなくなります。指示の意図が伝わらなければ、部下は自信を持って動けません。
4
「ついていきたい上司」にはなれない
どれだけ知識・経験・人柄が優れていても、話し方で部下を消耗させる上司は、慕われません。「あの人のためなら頑張りたい」という感覚は、日々の小さなコミュニケーションの積み重ねから生まれます。

話し方はマネジメント能力の一部

「話し方は個性だから仕方ない」とよく言われますが、それは違います。コンパクトに・わかりやすく・相手の時間を尊重して伝えることは、マネジメントスキルの一つです。意識して鍛えられるスキルであり、鍛えなければチームに悪影響を与え続けます。


部下に伝わらない上司の話し方——5つの特徴

「伝わらない話し方」には、共通したパターンがあります。自分に当てはまるものがないか、確認してみてください。

1 結論が最後——話を聞き続けないと何の話かわからない

「あのね、先日のことなんだけど、あれは去年もそういう話があって、そのときには……(5分後)……だから、今回は〇〇してほしいんだけどね」——結論を最後まで引っ張るタイプです。部下は「で、結局何をしてほしいの?」とずっと頭の中で考えながら聞くことになります。

改善のポイント:「〇〇してほしい。理由は……」と、結論を先に言ってから理由・背景を話す(PREP法)。

2 話が脱線する——本題と関係ない話が次々と出てくる

「そういえば昔ね……」「ところで話は変わるけど……」「あ、それで思い出したんだけど……」——話の途中で次々と別の話題が混入し、最初の話に戻ってこないパターンです。部下はどこに集中すればいいかわからなくなります。

改善のポイント:話す前に「今日のテーマは〇〇の1点です」とテーマを宣言してから話す。脱線しそうになったら「話を戻すと……」と自分で軌道修正する。

3 同じことを繰り返す——念のためにと何度も言う

「だからね、〇〇が大事なんだよ。本当に〇〇は大事で、〇〇をしっかりやってほしい。よく言うでしょ、〇〇が命だって。とにかく〇〇を忘れないで」——同じ内容を表現を変えながら何度も繰り返すパターンです。「一度で伝わっていないかもしれない」という不安から生まれることが多いですが、部下には「また同じ話だ」と感じさせます。

改善のポイント:一度言ったら「伝わったか」を確認する。「今の話、どう受け取りましたか?」と聞けば、繰り返さなくても伝わっているかどうかがわかる。

4 「何をしてほしいか」が不明——感想・情報共有で終わる

「あの件、なかなか難しいよね。まあいろいろあるから」「お客様からこういう話があってさ」——情報や感想は伝えるが、「だから部下に何をしてほしいのか」が最後まで出てこないパターンです。部下は「で、自分は何をすればいいの?」と宙ぶらりんになります。

改善のポイント:話す前に「この話のゴールは何か」を自分の中で決める。「情報共有」「指示」「相談」「雑談」のどれかを明確にしてから話しかける。

5 相手の状況を確認しない——いつでも自分のタイミングで話しかける

「ちょっといい?」と言いながら、相手が集中して作業している最中に話しかけ、断れない雰囲気を作って10分話し続ける——相手の「今」を無視したタイミングで話しかけるパターンです。私が体験したあの上司も、まさにこのタイプでした。

改善のポイント:「今、少し話せる?」と確認してから話す。急ぎでなければ「手が空いたときに聞いてほしいんだけど」と相手のタイミングを尊重する一言を添える。

なぜ上司は話が長くなるのか——心理的な背景

「自分でも話が長いと思っているが、なかなか直せない」という管理職は少なくありません。話が長くなる背景には、次のような心理が潜んでいます。

「丁寧に伝えなければ」という責任感
背景・経緯・理由・例外まで全部伝えなければ誤解されるかもしれない、という誠実さが、話を膨らませてしまう。
「経験・知識を伝えたい」という使命感
自分が積み上げてきた知見を部下に伝えたい。そのこと自体は良いことだが、「全部伝えなければ損」という意識が話を長くする。
話しながら考えている——整理されていない
話す前に「何を伝えるか」を整理していないため、話しながら考えることになり、それが脱線・繰り返し・結論の遅れにつながる。
部下の反応を見ていない
「もう理解しているサイン」「早く終わってほしいサイン」を読み取れず、一方的に話し続けてしまう。コミュニケーションは「双方向」であることを忘れている。

コンパクトに伝える——今日から使える話し方の技術

「伝わる話し方」は、センスではなくスキルです。意識して実践すれば、誰でも必ず改善できます。

①話す前に「3つを決める」

話しかける前に頭の中で3つを確認します。

①何のための話か(指示・報告・相談・共有のどれか)
②結論は何か(一言で言うと何をしてほしいか)
③どれくらいで終わるか(「1分で話せる内容か」「3分か」)

この3つが決まってから話しかけると、話が格段にコンパクトになります。

②結論を先に言う——PREP法

伝わる話の黄金構造はPREP法です。

PREP法の構造

P(Point):結論「〇〇をお願いしたいです」
R(Reason):理由「なぜなら、△△という理由があるからです」
E(Example):具体例「例えば、□□という状況で……」
P(Point):結論を繰り返す「ですので、〇〇をお願いします」

最初に結論を言うだけで、部下は「この話はどこへ向かっているのか」がわかった状態で聞けます。理解度・記憶度が大幅に上がります。

③「1分以内に言えるか」を自分に問う

話しかける前に「これは1分以内に伝えられるか」と自分に問いかける習慣を持ちましょう。1分で言えないなら、何が余分かを削ります。「削っても伝わる情報」と「削ったら伝わらない情報」を区別する意識が、コンパクトな話し方をつくります。

④「今、話せる?」と確認してから始める

話しかける前に「今、少し時間ある?2〜3分でいいんだけど」と相手の状況を確認します。相手のタイミングを尊重する一言が、部下に「この上司は自分の時間を大切にしてくれる」という安心感を与えます。急ぎでない話なら「手が空いたときに聞いてほしいんだけど」という伝え方も有効です。

⑤部下の「理解サイン」を確認して終わる

話し終わったら「今の話、どう受け取りましたか?」「何か確認したいことはありますか?」と聞く。一方通行で話し終わるのではなく、部下の理解を確認して締めることで、繰り返しや誤解が防げます。


「また話しかけたい上司」になるために

私が避けていたあの上司は、悪い人ではありませんでした。むしろ、誠実で熱心な方でした。しかし「また話しかけたい」とは思えなかった——それが現実でした。

「また話しかけたい上司」とはどんな上司か。それは、

✔ 話しかけると、短くてわかりやすい言葉が返ってくる
✔ 結論が最初にあるので、ストレスなく聞ける
✔ 自分の時間を奪われる感覚がない
✔ 話が終わった後、「今日も何かを得た」と感じられる
✔ 「ちょっといいですか」と自分から声をかけやすい

部下が上司に「ちょっといいですか」と声をかけやすい職場は、報告・連絡・相談が活発になり、問題の早期発見ができ、チームのパフォーマンスが上がります。上司の話し方は、チームの風土そのものをつくっています。


まとめ:部下の時間を奪わない上司が、信頼される上司になる

「話が長い」「結論が見えない」「何度も同じことを言う」——こうした話し方の癖は、悪意からではなく、誠実さや責任感から生まれることがほとんどです。しかしその誠実さが、部下の時間を奪い、「避けたい上司」というレッテルを貼ることになってしまいます。

話し方はスキルです。意識して変えられます。結論を先に言う・話す前に整理する・相手の時間を確認する——この3つを意識するだけで、コミュニケーションの質は大きく変わります。

「また話しかけたい」と思われる上司になること——それは、チームを動かす最も基本的なマネジメントスキルのひとつです。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。説明力・伝達力強化・傾聴力・1on1コーチング・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。