「あの上司につかまると、また10分は取られる……」——部下にそう思われている上司が、あなたの職場にいませんか?あるいは、あなた自身がそう思われていませんか?話が長い・何を言いたいのかわからない・結論がいつまでも出ない——こうした話し方の癖は、部下の時間を奪い、信頼を少しずつ損なっていきます。この記事では、私自身が「部下」だった頃の体験を交えながら、伝わらない上司の話し方の特徴と、コンパクトに伝える技術を解説します。
この記事でわかること
- 「なるべく避けたい上司」になっていた——部下時代の体験談
- 「話が伝わらない」ことのマネジメント上のダメージ
- 部下に伝わらない上司の話し方——5つの特徴
- なぜ上司は話が長くなるのか——心理的な背景
- コンパクトに伝える——今日から使える話し方の技術
- 「また話しかけたい上司」になるために
「なるべく避けたい上司」になっていた——部下時代の体験談
私が部下として働いていた頃のことです。職場に、とても人柄のいい上司がいました。誠実で、部下思いで、悪意のかけらもない方でした。
ただ、一つだけ困ったことがありました。
話が、非常に長いのです。
「田中、ちょっといいか」と声をかけられると、そこから最低でも10分は取られます。最初は何の話なのかもわからないまま話が続き、途中で昔の経験談が入り、いくつかの脱線を経て、最後に「まあ、とにかくそういうことだから」という結論なのか結論でないのかわからない言葉で終わる。
忙しい仕事の最中につかまってしまうと、仕事の流れが完全に途切れてしまいます。
「あの人が近づいてきたら、席を立ってトイレに行こう」
「廊下で見かけたら、わざと別の方向へ行こう」
私は、その上司を意識的に避けるようになりました。
その上司はいい人でした。それは間違いありません。しかし、今改めて振り返ると、この状況はマネジメント上、深刻な問題だったと気づきます。部下に「なるべく関わりたくない」と思われている上司は、チームを率いることができません。どれだけ人柄が良くても、話し方がその信頼を少しずつ削っていたのです。
「話が伝わらない」ことのマネジメント上のダメージ
「話が少し長いだけ」と思うかもしれません。しかし、話し方の問題は、仕事の効率や人間関係に想像以上の悪影響を及ぼします。
話し方はマネジメント能力の一部
「話し方は個性だから仕方ない」とよく言われますが、それは違います。コンパクトに・わかりやすく・相手の時間を尊重して伝えることは、マネジメントスキルの一つです。意識して鍛えられるスキルであり、鍛えなければチームに悪影響を与え続けます。
部下に伝わらない上司の話し方——5つの特徴
「伝わらない話し方」には、共通したパターンがあります。自分に当てはまるものがないか、確認してみてください。
1 結論が最後——話を聞き続けないと何の話かわからない
「あのね、先日のことなんだけど、あれは去年もそういう話があって、そのときには……(5分後)……だから、今回は〇〇してほしいんだけどね」——結論を最後まで引っ張るタイプです。部下は「で、結局何をしてほしいの?」とずっと頭の中で考えながら聞くことになります。
2 話が脱線する——本題と関係ない話が次々と出てくる
「そういえば昔ね……」「ところで話は変わるけど……」「あ、それで思い出したんだけど……」——話の途中で次々と別の話題が混入し、最初の話に戻ってこないパターンです。部下はどこに集中すればいいかわからなくなります。
3 同じことを繰り返す——念のためにと何度も言う
「だからね、〇〇が大事なんだよ。本当に〇〇は大事で、〇〇をしっかりやってほしい。よく言うでしょ、〇〇が命だって。とにかく〇〇を忘れないで」——同じ内容を表現を変えながら何度も繰り返すパターンです。「一度で伝わっていないかもしれない」という不安から生まれることが多いですが、部下には「また同じ話だ」と感じさせます。
4 「何をしてほしいか」が不明——感想・情報共有で終わる
「あの件、なかなか難しいよね。まあいろいろあるから」「お客様からこういう話があってさ」——情報や感想は伝えるが、「だから部下に何をしてほしいのか」が最後まで出てこないパターンです。部下は「で、自分は何をすればいいの?」と宙ぶらりんになります。
5 相手の状況を確認しない——いつでも自分のタイミングで話しかける
「ちょっといい?」と言いながら、相手が集中して作業している最中に話しかけ、断れない雰囲気を作って10分話し続ける——相手の「今」を無視したタイミングで話しかけるパターンです。私が体験したあの上司も、まさにこのタイプでした。
なぜ上司は話が長くなるのか——心理的な背景
「自分でも話が長いと思っているが、なかなか直せない」という管理職は少なくありません。話が長くなる背景には、次のような心理が潜んでいます。
コンパクトに伝える——今日から使える話し方の技術
「伝わる話し方」は、センスではなくスキルです。意識して実践すれば、誰でも必ず改善できます。
①話す前に「3つを決める」
話しかける前に頭の中で3つを確認します。
①何のための話か(指示・報告・相談・共有のどれか)
②結論は何か(一言で言うと何をしてほしいか)
③どれくらいで終わるか(「1分で話せる内容か」「3分か」)
この3つが決まってから話しかけると、話が格段にコンパクトになります。
②結論を先に言う——PREP法
伝わる話の黄金構造はPREP法です。
PREP法の構造
P(Point):結論「〇〇をお願いしたいです」
R(Reason):理由「なぜなら、△△という理由があるからです」
E(Example):具体例「例えば、□□という状況で……」
P(Point):結論を繰り返す「ですので、〇〇をお願いします」
最初に結論を言うだけで、部下は「この話はどこへ向かっているのか」がわかった状態で聞けます。理解度・記憶度が大幅に上がります。
③「1分以内に言えるか」を自分に問う
話しかける前に「これは1分以内に伝えられるか」と自分に問いかける習慣を持ちましょう。1分で言えないなら、何が余分かを削ります。「削っても伝わる情報」と「削ったら伝わらない情報」を区別する意識が、コンパクトな話し方をつくります。
④「今、話せる?」と確認してから始める
話しかける前に「今、少し時間ある?2〜3分でいいんだけど」と相手の状況を確認します。相手のタイミングを尊重する一言が、部下に「この上司は自分の時間を大切にしてくれる」という安心感を与えます。急ぎでない話なら「手が空いたときに聞いてほしいんだけど」という伝え方も有効です。
⑤部下の「理解サイン」を確認して終わる
話し終わったら「今の話、どう受け取りましたか?」「何か確認したいことはありますか?」と聞く。一方通行で話し終わるのではなく、部下の理解を確認して締めることで、繰り返しや誤解が防げます。
「また話しかけたい上司」になるために
私が避けていたあの上司は、悪い人ではありませんでした。むしろ、誠実で熱心な方でした。しかし「また話しかけたい」とは思えなかった——それが現実でした。
「また話しかけたい上司」とはどんな上司か。それは、
✔ 話しかけると、短くてわかりやすい言葉が返ってくる
✔ 結論が最初にあるので、ストレスなく聞ける
✔ 自分の時間を奪われる感覚がない
✔ 話が終わった後、「今日も何かを得た」と感じられる
✔ 「ちょっといいですか」と自分から声をかけやすい
部下が上司に「ちょっといいですか」と声をかけやすい職場は、報告・連絡・相談が活発になり、問題の早期発見ができ、チームのパフォーマンスが上がります。上司の話し方は、チームの風土そのものをつくっています。
まとめ:部下の時間を奪わない上司が、信頼される上司になる
「話が長い」「結論が見えない」「何度も同じことを言う」——こうした話し方の癖は、悪意からではなく、誠実さや責任感から生まれることがほとんどです。しかしその誠実さが、部下の時間を奪い、「避けたい上司」というレッテルを貼ることになってしまいます。
話し方はスキルです。意識して変えられます。結論を先に言う・話す前に整理する・相手の時間を確認する——この3つを意識するだけで、コミュニケーションの質は大きく変わります。
「また話しかけたい」と思われる上司になること——それは、チームを動かす最も基本的なマネジメントスキルのひとつです。
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田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。説明力・伝達力強化・傾聴力・1on1コーチング・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。