面接官研修の現場で、面接のロールプレイを行うと、よく見られる光景があります。面接官が一生懸命に会社や仕事について説明しているのです。応募者を安心させたい、自社の魅力を伝えたい、沈黙をつくりたくない——その気持ちはよくわかります。しかし、面接官が話しすぎると、応募者を理解するための時間がなくなります。この記事では、「話す面接」から「聴く面接」に変えるための、具体的な考え方と実践方法を解説します。

この記事でわかること

  1. 面接官が話しすぎると、なぜ採用に失敗するのか
  2. 面接官が話しすぎてしまう4つの理由
  3. 「話す面接」から「聴く面接」に変える3つの実践
  4. 応募者の話を聴くことが「動機づけ」にもつながる
  5. 面接官は「話し上手」より「聴き上手」であること

面接官が話しすぎると、なぜ採用に失敗するのか

面接官研修の現場で、面接のロールプレイを行うと、よく見られる光景があります。面接官が一生懸命に会社や仕事について説明しているのです。応募者の回答に対しても、「それは当社でも大切にしています」「私も若い頃は同じでした」と話を広げます。

応募者を安心させたい。自社の魅力を伝えたい。沈黙をつくりたくない。その気持ちはよくわかります。しかし、面接官が話しすぎると、応募者を理解するための時間がなくなります。面接が終わったあとに、「感じのよい人だった」という印象しか残らず、肝心の能力や行動特性を評価できないこともあります。

面接官の役割は、上手に話すことではありません。応募者が話しやすい状況をつくり、その人の経験、考え方、行動を具体的に引き出すことです。


面接官が話しすぎてしまう4つの理由

①沈黙を「失敗」だと考えている

質問をしたあと、応募者がすぐに答えられないことがあります。このとき、面接官が沈黙に耐えられず、「例えば、アルバイトの経験でもいいですよ」「サークル活動ではどうですか」と、次々に言葉を足してしまいます。

しかし、応募者が黙っているのは、答えられないからとは限りません。自分の経験を思い出し、どのように説明すればよいかを考えている場合もあります。面接官がすぐに話し始めると、応募者の思考を中断させてしまいます。

質問をしたら、まず待つ。数秒の沈黙を恐れない。これも面接官に必要なスキルです。

②自社の魅力を早く伝えようとする

現在の採用面接では、応募者を見極めるだけでなく、自社への志望度を高める「動機づけ」も重要です。だからといって、面接の冒頭から会社説明を続けても、応募者の心には響きません。

応募者によって、魅力を感じるポイントは異なります。成長機会を重視する人もいれば、仕事の社会的意義、職場の人間関係、働き方、専門性を高められる環境を重視する人もいます。

まず応募者の価値観や仕事選びの基準を聴く。そのうえで、相手が関心を持つ情報を具体的に伝える。これが効果的な動機づけです。一方的な会社説明ではなく、応募者の話を踏まえた「相手に合わせた情報提供」が必要です。

③応募者の回答を自分の経験に置き換えてしまう

応募者が「学生時代にチームをまとめました」と話したときに、面接官が自分の経験を思い出し、「私も学生時代は体育会で……」と話し始めることがあります。

共通点を示すことは、応募者の緊張をほぐすうえで有効です。しかし、面接官の話が長くなると、主役が入れ替わってしまいます。応募者の回答に興味を持ったときは、自分の話をするのではなく、質問を返しましょう。

「チームをまとめるうえで、最も苦労したことは何ですか」
「意見の合わないメンバーに、どのように働きかけましたか」
「その経験から、何を学びましたか」

こうした質問によって、応募者の考え方や行動が具体的に見えてきます。

④応募者の回答に一つひとつ丁寧にコメントし、褒めようとする

応募者が何かを話すたびに、「それは素晴らしいですね」「すごく良い経験をされていますね」と、面接官が一つひとつ丁寧にコメントを返す場面があります。応募者を評価し、安心してもらいたいという気持ちから、良かれと思ってやっていることがほとんどです。

しかし、この丁寧なコメントも、結果として面接官の話す時間を長くし、応募者の話す時間を短くしてしまいます。一つの回答に対して面接官が感想や称賛を挟むたびに、次の質問・次の深掘りに使える時間が削られていきます。

コメントや称賛は、うなずきや相槌など短い反応にとどめ、続きを聴くことを優先する。「なるほど、それで?」「そうなんですね、そのあとは?」——このくらいの短さで十分です。

応募者を尊重する姿勢は大切ですが、それは長いコメントではなく、丁寧に聴き続ける態度そのもので伝わります。


「話す面接」から「聴く面接」に変える3つの実践

①説明ではなく、短い質問をする

面接官の質問が長いと、応募者は何を答えればよいのかわからなくなります。例えば、次のような質問です。

❌「仕事では周囲との協力が大切ですが、学生時代にもいろいろな人と協力した経験があると思います。そのなかで大変だったことや工夫したことがあれば教えてください」

質問のなかに、前置きと説明と複数の問いが入っています。これを、次のように分けます。

✅「周囲と協力して取り組んだ経験を教えてください」

応募者が答えたあとに——
「そのとき、どのような役割を担いましたか」
「意見が合わない人には、どう働きかけましたか」
——と、一問ずつ深掘りします。

質問を短くすると、応募者は答えやすくなり、面接官も回答を正確に聴けるようになります。

②応募者の言葉を拾って深掘りする

あらかじめ用意した質問を順番に読み上げるだけでは、応募者の本当の姿は見えてきません。大切なのは、応募者の回答のなかにある言葉を拾うことです。

応募者が「メンバーに積極的に声をかけました」と話したなら、次のように質問します。

「積極的に、とは具体的にどのような声をかけたのですか」
「何人くらいに、どのくらいの頻度で声をかけましたか」
「相手の反応はどうでしたか」
「うまくいかなかったときは、何を変えましたか」

「積極的に取り組んだ」「頑張った」「工夫した」という表現だけでは、具体的な行動はわかりません。抽象的な言葉を具体的な事実に変えていく。それが深掘り質問の役割です。

③面接官は「話す量」ではなく「得られた情報」で振り返る

面接後の振り返りでは、「うまく説明できた」「会話が盛り上がった」ではなく、応募者について何がわかったかを確認します。

振り返りで確認すべき情報の例

困難な状況で、どのように考えたか
周囲にどのような働きかけをしたか
自分の役割をどう捉えていたか
失敗したあと、何を修正したか
その経験から何を学んだか
同じ状況でも再現できそうな行動か

これらがわからなければ、面接官がどれだけ上手に話しても、見極めに必要な情報は得られていません。

応募者7割:面接官3割

面接全体で、この比率を目安に意識する

ただし、単に応募者の話す時間を長くすればよいわけではありません。面接官が短く的確な質問をし、回答を受け止め、必要な部分を深掘りすることが重要です。


応募者の話を聴くことが「動機づけ」にもつながる

話を聴くことは、応募者を見極めるためだけのものではありません。応募者は、自分の経験や考えを丁寧に聴いてもらうことで、「この会社は自分を一人の人間として見てくれている」と感じます。

反対に、面接官が会社説明や自分の経験ばかりを話していると、応募者は「誰に対しても同じ説明をしているのではないか」と感じます。

応募者の話を聴き、その人の価値観に合った情報を返す。

「お話を伺うと、若いうちから仕事を任される環境を重視されているのですね。当社では、入社2年目から小規模なプロジェクトを担当する機会があります」

このように伝えれば、会社の情報が応募者自身の希望と結びつきます。見極めと動機づけは別々のものではありません。丁寧に聴くことが、適切な見極めと効果的な動機づけの両方につながります。


面接官は「話し上手」より「聴き上手」であること

面接官に選ばれると、「会社を代表して、しっかり話さなければならない」と考える人が少なくありません。しかし、面接官が話しすぎるほど、応募者を理解する時間は減っていきます。

面接官に求められるのは、流暢な説明力ではありません。短く質問する。回答を遮らずに聴く。抽象的な表現を具体的な行動まで掘り下げる。そして、応募者の価値観に合わせて自社の魅力を伝える。

面接は、面接官が自分を表現する場ではありません。応募者を理解し、お互いの相性を確かめる場です。「自分が何を話すか」ではなく、「応募者から何を聴くか」。この視点を持つだけで、面接で得られる情報の質は大きく変わります。

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田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界34年以上、営業・営業マネージャー経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。2,000人以上の面接官・経営者へのトレーニング実績を持つ。著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』好評発売中。Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する