面接官研修の現場で、面接のロールプレイを行うと、よく見られる光景があります。面接官が一生懸命に会社や仕事について説明しているのです。応募者を安心させたい、自社の魅力を伝えたい、沈黙をつくりたくない——その気持ちはよくわかります。しかし、面接官が話しすぎると、応募者を理解するための時間がなくなります。この記事では、「話す面接」から「聴く面接」に変えるための、具体的な考え方と実践方法を解説します。
この記事でわかること
- 面接官が話しすぎると、なぜ採用に失敗するのか
- 面接官が話しすぎてしまう4つの理由
- 「話す面接」から「聴く面接」に変える3つの実践
- 応募者の話を聴くことが「動機づけ」にもつながる
- 面接官は「話し上手」より「聴き上手」であること
面接官が話しすぎると、なぜ採用に失敗するのか
面接官研修の現場で、面接のロールプレイを行うと、よく見られる光景があります。面接官が一生懸命に会社や仕事について説明しているのです。応募者の回答に対しても、「それは当社でも大切にしています」「私も若い頃は同じでした」と話を広げます。
応募者を安心させたい。自社の魅力を伝えたい。沈黙をつくりたくない。その気持ちはよくわかります。しかし、面接官が話しすぎると、応募者を理解するための時間がなくなります。面接が終わったあとに、「感じのよい人だった」という印象しか残らず、肝心の能力や行動特性を評価できないこともあります。
面接官の役割は、上手に話すことではありません。応募者が話しやすい状況をつくり、その人の経験、考え方、行動を具体的に引き出すことです。
面接官が話しすぎてしまう4つの理由
①沈黙を「失敗」だと考えている
質問をしたあと、応募者がすぐに答えられないことがあります。このとき、面接官が沈黙に耐えられず、「例えば、アルバイトの経験でもいいですよ」「サークル活動ではどうですか」と、次々に言葉を足してしまいます。
しかし、応募者が黙っているのは、答えられないからとは限りません。自分の経験を思い出し、どのように説明すればよいかを考えている場合もあります。面接官がすぐに話し始めると、応募者の思考を中断させてしまいます。
②自社の魅力を早く伝えようとする
現在の採用面接では、応募者を見極めるだけでなく、自社への志望度を高める「動機づけ」も重要です。だからといって、面接の冒頭から会社説明を続けても、応募者の心には響きません。
応募者によって、魅力を感じるポイントは異なります。成長機会を重視する人もいれば、仕事の社会的意義、職場の人間関係、働き方、専門性を高められる環境を重視する人もいます。
まず応募者の価値観や仕事選びの基準を聴く。そのうえで、相手が関心を持つ情報を具体的に伝える。これが効果的な動機づけです。一方的な会社説明ではなく、応募者の話を踏まえた「相手に合わせた情報提供」が必要です。
③応募者の回答を自分の経験に置き換えてしまう
応募者が「学生時代にチームをまとめました」と話したときに、面接官が自分の経験を思い出し、「私も学生時代は体育会で……」と話し始めることがあります。
共通点を示すことは、応募者の緊張をほぐすうえで有効です。しかし、面接官の話が長くなると、主役が入れ替わってしまいます。応募者の回答に興味を持ったときは、自分の話をするのではなく、質問を返しましょう。
「意見の合わないメンバーに、どのように働きかけましたか」
「その経験から、何を学びましたか」
こうした質問によって、応募者の考え方や行動が具体的に見えてきます。
④応募者の回答に一つひとつ丁寧にコメントし、褒めようとする
応募者が何かを話すたびに、「それは素晴らしいですね」「すごく良い経験をされていますね」と、面接官が一つひとつ丁寧にコメントを返す場面があります。応募者を評価し、安心してもらいたいという気持ちから、良かれと思ってやっていることがほとんどです。
しかし、この丁寧なコメントも、結果として面接官の話す時間を長くし、応募者の話す時間を短くしてしまいます。一つの回答に対して面接官が感想や称賛を挟むたびに、次の質問・次の深掘りに使える時間が削られていきます。
応募者を尊重する姿勢は大切ですが、それは長いコメントではなく、丁寧に聴き続ける態度そのもので伝わります。
「話す面接」から「聴く面接」に変える3つの実践
①説明ではなく、短い質問をする
面接官の質問が長いと、応募者は何を答えればよいのかわからなくなります。例えば、次のような質問です。
質問のなかに、前置きと説明と複数の問いが入っています。これを、次のように分けます。
応募者が答えたあとに——
「そのとき、どのような役割を担いましたか」
「意見が合わない人には、どう働きかけましたか」
——と、一問ずつ深掘りします。
質問を短くすると、応募者は答えやすくなり、面接官も回答を正確に聴けるようになります。
②応募者の言葉を拾って深掘りする
あらかじめ用意した質問を順番に読み上げるだけでは、応募者の本当の姿は見えてきません。大切なのは、応募者の回答のなかにある言葉を拾うことです。
応募者が「メンバーに積極的に声をかけました」と話したなら、次のように質問します。
「何人くらいに、どのくらいの頻度で声をかけましたか」
「相手の反応はどうでしたか」
「うまくいかなかったときは、何を変えましたか」
「積極的に取り組んだ」「頑張った」「工夫した」という表現だけでは、具体的な行動はわかりません。抽象的な言葉を具体的な事実に変えていく。それが深掘り質問の役割です。
③面接官は「話す量」ではなく「得られた情報」で振り返る
面接後の振り返りでは、「うまく説明できた」「会話が盛り上がった」ではなく、応募者について何がわかったかを確認します。
振り返りで確認すべき情報の例
困難な状況で、どのように考えたか
周囲にどのような働きかけをしたか
自分の役割をどう捉えていたか
失敗したあと、何を修正したか
その経験から何を学んだか
同じ状況でも再現できそうな行動か
これらがわからなければ、面接官がどれだけ上手に話しても、見極めに必要な情報は得られていません。
応募者7割:面接官3割
面接全体で、この比率を目安に意識する
ただし、単に応募者の話す時間を長くすればよいわけではありません。面接官が短く的確な質問をし、回答を受け止め、必要な部分を深掘りすることが重要です。
応募者の話を聴くことが「動機づけ」にもつながる
話を聴くことは、応募者を見極めるためだけのものではありません。応募者は、自分の経験や考えを丁寧に聴いてもらうことで、「この会社は自分を一人の人間として見てくれている」と感じます。
反対に、面接官が会社説明や自分の経験ばかりを話していると、応募者は「誰に対しても同じ説明をしているのではないか」と感じます。
応募者の話を聴き、その人の価値観に合った情報を返す。
このように伝えれば、会社の情報が応募者自身の希望と結びつきます。見極めと動機づけは別々のものではありません。丁寧に聴くことが、適切な見極めと効果的な動機づけの両方につながります。
面接官は「話し上手」より「聴き上手」であること
面接官に選ばれると、「会社を代表して、しっかり話さなければならない」と考える人が少なくありません。しかし、面接官が話しすぎるほど、応募者を理解する時間は減っていきます。
面接官に求められるのは、流暢な説明力ではありません。短く質問する。回答を遮らずに聴く。抽象的な表現を具体的な行動まで掘り下げる。そして、応募者の価値観に合わせて自社の魅力を伝える。
面接は、面接官が自分を表現する場ではありません。応募者を理解し、お互いの相性を確かめる場です。「自分が何を話すか」ではなく、「応募者から何を聴くか」。この視点を持つだけで、面接で得られる情報の質は大きく変わります。
あわせて読みたい記事
「聴く面接」を組織として実践できる面接官を育てたい方へ
面接官トレーニング研修の導入、個人での動画学習、無料相談など、目的に合わせてご活用ください。
田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界34年以上、営業・営業マネージャー経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。2,000人以上の面接官・経営者へのトレーニング実績を持つ。著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』好評発売中。Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する