「こんなに一生懸命教えているのに、なぜ喜んでくれないんだろう」——マネージャーになりたての頃、私はそんな思いを抱えていました。自分の営業スキルを惜しみなくメンバーに伝授しようとしていたのに、多くのメンバーにはどこか避けられているような感覚がありました。その理由がわかったのは、コーチングを学んだときです。この記事では、私自身の体験を通じて、コーチングとティーチングの根本的な違いと、どう使い分けるべきかを解説します。
この記事でわかること
- 「なぜ喜んでくれないのか」——30歳のマネージャー時代の体験談
- ティーチングとは何か——「教える」アプローチの特徴
- コーチングとは何か——「引き出す」アプローチの特徴
- コーチングとティーチングの決定的な違い
- なぜ「教えすぎ」は逆効果になるのか
- コーチングとティーチング——どう使い分けるか
- 今日からできるコーチングの第一歩
「なぜ喜んでくれないのか」——30歳のマネージャー時代の体験談
私がマネージャーになったのは、30歳頃のことです。
当時の私には、一つの強い思いがありました。
とにかく一生懸命でした。営業の基本から、お客様との話し方、クロージングのコツ、ヒアリングの技術——自分が経験の中で学んできたことを、惜しみなくメンバーに教えようとしていました。
一部のメンバーはとても喜んでくれました。「田中さんに教えてもらって、成績が上がりました!」と言ってくれるメンバーもいた。それは本当に嬉しかった。
しかし、多くのメンバーは違いました。
なんとなく、私を避けているような感じがするのです。教えようとすると、どこかぼんやりした顔をする。返事はするが、目が輝いていない。私が話しかけると、どこかそわそわしている。
「もしかして、この人たちがちょっとおかしいのではないか」
恥ずかしながら、当時の私はそんなことすら思っていました。
その理由がわかったのは、コーチングを本格的に学んだときです。
原因は、メンバーにあったのではありませんでした。私自身の「育て方の思い込み」にあったのです。
ティーチングとは何か——「教える」アプローチの特徴
まず「ティーチング」とは何かを整理します。
ティーチングとは、知識・スキル・経験を持つ側(上司・先輩)が、それを持っていない側(部下・後輩)に対して、直接教える・伝える・示すアプローチです。
ティーチングの特徴
・答えを持っているのは教える側——「こうすればいい」を伝える
・知識・スキルを直接インプットする——「正解を教える」アプローチ
・効果が出るのが早い——知識がゼロの状態から素早く底上げできる
・受け手の依存度が高まりやすい——「教えてもらえるから自分で考えなくていい」という状態になりやすい
ティーチングは、知識・スキルがまだない相手、経験がゼロの新人、緊急を要する場面では非常に有効なアプローチです。
しかし、ティーチングだけでは育たない人材がいます。当時の私はその事実を知らなかった。
コーチングとは何か——「引き出す」アプローチの特徴
コーチングとは、ティーチングとは根本的に異なる発想に立っています。
コーチングの前提は、「答えは相手の中にある」ということです。コーチングとは、質問・傾聴・承認を通じて、相手が自分自身で答えを見つけ、行動を引き出す支援のアプローチです。
コーチングの特徴
・答えを持っているのは相手自身——引き出す・気づかせる
・質問と傾聴が中心——「どう思う?」「どうしたい?」と問いかける
・自律性・主体性が育つ——「自分で考え、自分で動く」人材になる
・モチベーションが上がりやすい——自分で出した答えだから、やる気が続く
コーチングでは、上司が「正解を教える」のではなく、「相手が自分で正解にたどり着けるよう支援する」のです。
コーチングとティーチングの決定的な違い
私が30歳のマネージャー時代にやっていたことは、全員に対してティーチングだけを行うことでした。知識・スキルをまだ持っていない新人には効果がありました。しかし、ある程度経験を積んだメンバーには逆効果だったのです。
なぜ「教えすぎ」は逆効果になるのか
コーチングを学んで、私は初めて理解しました。多くのメンバーが私を避けていた理由を。
ある程度の経験を持つメンバーには、すでに自分なりの考え・やり方・スタイルがあります。そこに「こうすればいい」「私はこうやってきた」という一方的なティーチングをぶつけると、次のことが起きます。
コーチングを学んで気づいたこと
私が一生懸命教えていたとき、メンバーが求めていたのは「答え」ではなく、「自分の話を聴いてもらうこと」「自分で考える機会」「認めてもらうこと」だったのかもしれません。私はそれを知らずに、ひたすら「教える」ことで愛情を表現しようとしていた。それが、すれ違いを生んでいたのです。
コーチングとティーチング——どう使い分けるか
コーチングとティーチング、どちらが「正しい」というわけではありません。大切なのは、相手の状態・状況に応じて使い分けることです。
目安としては、「相手がどんな状態にあるか」で判断します。知識・スキルが不足している段階ではティーチング、ある程度の土台ができてきたらコーチングへ移行する——このグラデーションを意識することが、育成上手なマネージャーへの近道です。
判断の問いかけ
「このメンバーは、答えを知らないのか?(→ティーチング)」
「このメンバーは、答えを知っているが行動できていないのか?(→コーチング)」
「このメンバーは、考える機会が必要なのか?(→コーチング)」
今日からできるコーチングの第一歩
「コーチングって難しそう」と感じる方も多いと思います。しかし最初の一歩はシンプルです。「教える前に、まず聴く」——これだけです。
①アドバイスの前に「どう思う?」と聞く
部下が何かを報告・相談してきたとき、すぐに「こうすればいい」と言わずに、まず「あなたはどう思う?」「どうしたいと思っている?」と聞いてみる。これだけで、コーチング的な関わりが始まります。
②「うまくいった理由」を本人に考えさせる
部下が成果を出したとき、「よくやった!」で終わらせず、「今回うまくいったのはなぜだと思う?」と聞く。自分で理由を言語化することで、再現性のある学びになります。
③「どうなりたいか」を聞く
日頃の会話の中で、「この先、どんなふうになっていきたい?」「どんなことができるようになりたい?」と問いかける。目標・ビジョンを言葉にする機会を与えることが、主体的な行動のきっかけになります。
④「承認」を言葉にする
コーチングの重要な要素の一つが「承認(アクノレッジメント)」です。成果だけでなく、プロセス・姿勢・成長を言葉で認めることが、人の自信と主体性を育てます。「最近〇〇の取り組み方が変わってきたね」「あの場面での判断は良かったと思う」——こうした言葉が、コーチングの土台を作ります。
コーチングとティーチングを組み合わせる
「コーチングだけでいい」わけではありません。コーチングとティーチングは車の両輪です。相手の成長段階・場面・緊急度によって、両方を使いこなせる管理職が、本当の意味で「育成上手」と言われるマネージャーになれます。
まとめ:「教える」から「引き出す」へ——マネージャーの進化
「こんなに一生懸命教えているのになぜ喜ばれないのか」——30歳のあの頃の私への答えは、今ならはっきり言えます。
多くのメンバーが求めていたのは「答え」ではなく、「自分の考えを引き出してもらう機会」と「認めてもらうこと」だったのです。
ティーチングは「知識を与える」アプローチ。コーチングは「可能性を引き出す」アプローチ。この違いを理解し、使い分けることが、育成上手なマネージャーへの第一歩です。
「教える前に、まず聴く」——今日からその一言を変えるだけで、部下との関係は少しずつ変わり始めます。
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田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。コーチングマネジメント・1on1・傾聴力・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。