「見極め」と「動機づけ」——面接官に求められる2つの視点のうち、多くの企業が手薄になっているのが後者です。どれだけ優秀な候補者を見極めても、心をつかめなければ、他社に決まってしまいます。面接官の伝え方ひとつで、内定承諾率は大きく変わります。この記事では、私自身の面接経験をもとに、候補者の心をつかむ伝え方について解説します。

この記事でわかること

  1. 「包み隠さず、誠実に向き合った」面接——私の体験談
  2. なぜ「いい話だけ」を伝える面接は、心をつかめないのか
  3. 候補者の心をつかむ伝え方——4つのステップ
  4. 「現状認識の甘さ」をどう伝えるか
  5. 動機づけの面接が、内定承諾率を高める理由
  6. 今日から実践できること

「包み隠さず、誠実に向き合った」面接——私の体験談

私がこれまで担当してきた面接の中で、強く印象に残っている一場面があります。ある候補者との面接でのことです。

その候補者には、転職先で実現したい明確な思いがありました。私はまず、その思いをじっくりとヒアリングすることに時間を使いました。

傾聴しながら、否定も肯定もせず、ただ最後まで話を聴き切る。候補者が「自分の考えを、ようやく全部話せた」という表情を浮かべたところで、私はこう伝えました。

「では、あなたがやりたいことを、当社で実現できるかどうかについてお答えします」

そして私は、包み隠さず、できることとできないことを具体的に伝えました。その理由も、あわせて丁寧に説明しました。それが現状の当社の課題であるならば、その課題に対して今後どう取り組んでいくつもりかも、正直に伝えました。

さらに、候補者が話してくれた「やりたいこと」の中に、本人の現状認識の甘さから来ていると感じられる部分もありました。そこについても、私は曖昧にせず、はっきりと伝えました。「それは、ビジネスとして現実的ではないと思います」と。なぜそう考えるのか、その理由も含めて説明しました。

正直、この伝え方は、候補者にとって耳の痛い内容も含んでいました。気に入られようとするなら、もっと心地よい言葉を選ぶこともできたはずです。しかし私は、そうしませんでした。

面接が終わったあと、内定をお伝えしました。内定承諾までに、2日ほどかかりました。すぐに「はい」とは言われなかった——それは、候補者がこちらの伝えた内容を、自分の中で真剣に受け止め、考え抜いてくれた時間だったのだと思います。

そして、その候補者は、内定を承諾してくれました。

この経験から私が学んだのは、「都合のいい話だけを伝えること」が、必ずしも候補者の心をつかむことにはつながらないということです。むしろ、誠実に、包み隠さず向き合った姿勢こそが、信頼を生み、最終的な決断を後押ししたのだと、今でも強く感じています。


なぜ「いい話だけ」を伝える面接は、心をつかめないのか

多くの面接官が、「動機づけ」を「候補者に良い印象を持ってもらうこと」と捉えています。そのため、自社の魅力・良い面だけを並べて伝えようとします。

しかし、これには大きな落とし穴があります。

「良い話だけ」は、候補者に見透かされる
今の候補者は、口コミサイト・SNSなどで企業情報を事前に調べています。面接で語られる「良い面だけの話」と、現実とのギャップに気づかれれば、信頼は一気に崩れます。
「本気で向き合ってくれた」という実感が生まれない
耳の痛い話を避ける面接官からは、「私という人間にきちんと向き合ってくれた」という実感を持ってもらえません。
入社後のギャップが、早期離職につながる
良い面だけを伝えて入社してもらっても、現実とのギャップに気づけば、すぐに離職してしまいます。これは結局、誰にとっても良い結果にはなりません。

候補者の心を本当につかむのは、「気に入られる話」ではなく「誠実に向き合われた」という実感です。私が経験したように、できないことをはっきり伝え、現実とのギャップを正直に説明することは、一見リスクに見えますが、実際には長期的な信頼関係の土台になります。


候補者の心をつかむ伝え方——4つのステップ

私自身の経験を整理すると、候補者の心をつかむ伝え方には、共通する4つのステップがあります。

1 まず、候補者の「やりたいこと」を聴き切る

候補者が転職先で実現したいことを、否定も肯定もせず、最後まで聴く。途中で口を挟んで誘導したり、評価を急いだりしないことが大切です。候補者が「全部話せた」という表情になるまで、じっくり向き合います。

2 できること・できないことを、理由とともに具体的に伝える

「できます」「できません」だけで終わらせず、なぜできるのか、なぜできないのかという理由まで丁寧に説明する。「それが現状の課題であれば、今後どう取り組んでいくつもりか」まで伝えることで、誠実さが伝わります。

3 現状認識の甘さがあれば、はっきりと、理由とともに伝える

候補者の話の中に、現実的でない期待や、現状を正確に理解していない部分が見えたら、遠慮せず、はっきりと伝える。「それはビジネス的に現実的ではないと思います」と伝えた上で、なぜそう考えるのかを誠実に説明します。

4 決断の時間を、候補者に与える

誠実に向き合った話は、その場で即決を求めなくても構いません。候補者が自分の中で受け止め、考え抜く時間を尊重する。私が経験したように、内定承諾までに数日かかることもありますが、それは候補者が真剣に考えてくれている証拠です。


「現状認識の甘さ」をどう伝えるか

このステップは、面接官にとって最も難しく、避けたくなる場面です。耳の痛いことを伝えるのは、誰にとっても気が重いものです。しかし、ここで伝える・伝えないかが、候補者の心をつかめるかどうかの分かれ道になります。

伝える際に意識したいポイント

・候補者の人格を否定するのではなく、「認識」「期待値」に対して伝える
・「あなたが間違っている」ではなく、「現実は、こうなっている」という事実ベースで伝える
・伝えた後、候補者の反応をしっかり受け止める時間を取る
・伝える目的は「諭す」ことではなく、「ミスマッチを防ぐ」ことであると、自分の中で明確にしておく

耳の痛い話を誠実に伝えることは、候補者を傷つけるためではなく、入社後の不幸なミスマッチを防ぐためのものです。この目的を面接官自身が理解していれば、伝え方にも自然と誠実さが乗ります。


動機づけの面接が、内定承諾率を高める理由

「いい話だけを伝える」のではなく「誠実に、包み隠さず伝える」面接が、なぜ内定承諾率を高めるのか。その理由を整理します。

「自分という人間に、本気で向き合ってくれた」という実感
話を聴き切られ、誠実な答えを返されることで、候補者は「この面接官は、自分を真剣に見てくれた」と感じます。
入社後の安心感につながる
できること・できないことが明確であれば、候補者は入社後の現実を正しく理解した上で決断できます。これが「思っていたのと違った」という早期離職を防ぎます。
誠実な姿勢そのものが、企業の魅力になる
「この会社は、面接でも誠実に対応してくれた」という印象は、候補者にとって企業選びの大きな決め手になります。

内定承諾までに数日かかったとしても、それは候補者が「軽い気持ちで決めたのではなく、しっかり考えた上で決めた」ということです。こうして得られた内定承諾は、入社後の定着にもつながりやすくなります。


今日から実践できること

「動機づけの面接」を実践するために、今日から意識できることをまとめます。

  • 候補者の話を、最後まで聴き切る
    途中で評価を急がず、否定も肯定もせず、まずは受け止める。
  • できないことを、隠さずに伝える勇気を持つ
    「気に入られたい」という気持ちより、「誠実であること」を優先する。
  • 「なぜ」を必ず添えて伝える
    できる・できないの理由、現状認識のズレの理由を、必ず説明する。
  • 即決を求めず、考える時間を尊重する
    内定承諾に数日かかることを、ネガティブに捉えない。それは候補者が真剣に考えている証拠です。

まとめ:誠実さこそが、最強の動機づけになる

候補者の心をつかむのは、聞こえのいい言葉ではありません。包み隠さず、誠実に向き合う姿勢です。

私が経験したように、できないことをはっきり伝え、現状認識の甘さにも正直に向き合った面接は、一見リスクのある選択に見えます。しかし、それこそが候補者にとって「本気で向き合ってくれた」という実感になり、結果として内定承諾という決断を後押しします。

「見極め」が候補者を正しく評価する技術であるなら、「動機づけ」は候補者と誠実に向き合う姿勢です。この2つが揃ったとき、面接は本当の意味で機能し始めます。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。面接官トレーニング・採用力強化・傾聴力・コーチング・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。2026年8月、著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』を発売予定。