「ハラスメントだと言われるのが怖くて、部下のミスや問題行動に何も言えない」——いま、こうした悩みを抱える管理職が増えています。しかし、部下の誤りを正すことは、管理職の大切な役割の一つです。この記事では、管理職の役割をあらためて確認したうえで、ハラスメントにならない「上手な叱り方」を具体的な言い方とともに解説します。

※人事・研修ご担当の方へ:管理職向けハラスメント防止研修のご案内は、記事の後半(研修のご紹介)にまとめています。

この記事でわかること

  1. 「叱れない管理職」が増えている背景
  2. 管理職の役割は「目標達成」と「人材育成」
  3. 叱らないことで起こる、4つのリスク
  4. 「指導」と「パワハラ」の違い
  5. 上手な叱り方——7つのポイント
  6. 言い換え例:NGな言い方とOKな言い方
  7. 会話例:同じミスを繰り返す部下に
  8. 叱った後のフォローと、気をつけたいこと
  9. まとめ
  10. 管理職向けハラスメント防止研修のご紹介(人事・研修ご担当者様へ)

「叱れない管理職」が増えている背景

パワーハラスメントへの社会的な関心が高まり、企業には防止措置が求められるようになりました。その結果、管理職の側に「何を言えばパワハラになるのか分からない」「注意して部下に落ち込まれたら怖い」という不安が広がっています。

よく聞かれる声には、次のようなものがあります。

  • ミスを指摘したいが、言い方が分からず黙ってしまう
  • 強く言うとパワハラと言われそうで、やんわり伝えて終わってしまう
  • 注意するくらいなら、自分で直したほうが早いと考えてしまう
  • 叱ったあと、部下との関係が悪くなるのが不安

こうした不安は、真面目に部下と向き合う管理職ほど抱えがちです。ただ、「何も言わない」ことは、ハラスメントを避ける正しい方法ではありません。大切なのは、叱らないことではなく、適切な叱り方を身につけることです。


管理職の役割は「目標達成」と「人材育成」

あらためて、管理職の役割を確認しましょう。管理職には大きく2つの役割があります。

① 組織の目標を達成する

チームの成果に責任を持ち、仕事の質と進み方を管理します。

② 人材を育成する

部下が成長し、自立して成果を出せるよう導きます。

部下は、ときに間違えます。ミスをすることも、ルールを外れることもあります。そのとき、誤りを正し、次に同じことを繰り返さないよう導くことは、この2つの役割そのものです。注意や叱責は、管理職の仕事から切り離せません。

「叱らない」ことは、優しさではありません。部下に必要な成長の機会を与えないことにもなりかねません。必要なのは「叱るか、叱らないか」ではなく、「どう伝えるか」です。


叱らないことで起こる、4つのリスク

1
部下が成長しない
自分の誤りに気づく機会がなく、同じミスや問題行動が続きます。
2
周囲のメンバーに不公平感が生まれる
問題行動が見過ごされると、真面目に取り組む人ほど不満を抱えます。
3
問題が大きくなってから発覚する
小さな段階で伝えれば済んだことが、重大なトラブルや顧客への影響につながります。
4
管理職自身が疲弊する
言えないまま自分で抱え込み、負担とストレスが積み重なります。

人事・研修ご担当者様へ:管理職について、こんな課題はありませんか

  • ハラスメントを気にするあまり、管理職が部下に指導をしなくなっている
  • 問題行動やミスが放置され、周囲のメンバーの不満が出ている
  • 指導とハラスメントの境界線が、管理職によって異なる
  • 叱り方や伝え方を、管理職が学ぶ機会がない

一つでも当てはまる場合は、「指導とハラスメントの境界線」と「伝え方」を、実践を通じて学ぶ研修が役に立ちます。内容はこの記事の後半でご紹介しています。

管理職向けハラスメント防止研修について
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「指導」と「パワハラ」の違い

叱れない最大の理由は、「どこからがパワハラか分からない」ことです。まず、基本の考え方を押さえておきましょう。

職場のパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています(厚生労働省の指針)。

要素 内容
① 優越的な関係を背景とした言動であること
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
③ 労働者の就業環境が害されること

指針では、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場のパワーハラスメントには該当しないとされています。つまり、必要な注意や叱責そのものが、ハラスメントになるわけではありません。

問題になるのは、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えた伝え方です。たとえば、人格を否定する、大勢の前で執拗に責める、威圧的に怒鳴る、といった言動は、目的が指導であっても不適切です。

適切な指導 不適切になりやすい言動
事実(行動)について、具体的に伝える 人格や能力そのものを否定する
目的は、改善と成長 目的が、感情のはけ口や見せしめ
1対1の場で、落ち着いて伝える 他の社員の前で、大声で責める
相手の説明を聴き、次の行動を一緒に確認する 同じことを長時間、繰り返し責め続ける

上手な叱り方——7つのポイント

ハラスメントを恐れて何も言えない状態を抜け出すには、伝え方の「型」を持つことが近道です。次の7つを意識してみてください。

1
目的をはっきりさせる
叱る目的は「相手を責めること」ではなく、「改善と再発防止」です。伝える前に、自分に問いかけます。
2
早く、その場で伝える
時間がたつほど言いにくくなり、まとめて伝えると感情的になりがちです。小さなうちに、短く伝えます。
3
事実を確認してから伝える
思い込みで叱らず、「何があったのか」を先に確認します。事情を聴くことで、誤解も防げます。
4
「人」ではなく「行動」を指摘する
「君はだらしない」ではなく、「提出期限が過ぎた」と事実を伝えます。人格には触れません。
5
場所・時間・人数に配慮する
原則として1対1で、落ち着いて話せる場所を選びます。大勢の前で叱ることは避けます。
6
相手の言い分を聴く
一方的に話し続けず、「どう考えている?」と聴きます。部下が自分で気づくことで、行動が変わります。
7
期待と「次の行動」で締める
「あなたならできると思っているから伝えた」と期待を示し、次にどうするかを一緒に確認して終えます。

言い換え例:NGな言い方とOKな言い方

NGな言い方 OKな言い方
「何度言ったら分かるんだ」 「このミスは今月2回目だね。原因は何だと思う?どうすれば防げそう?」
「君は本当に仕事ができないな」 「この資料は、数字の根拠が抜けている。次は根拠を入れて出し直してほしい」
「やる気がないなら辞めたら?」 「最近、期限に遅れることが続いている。何か困っていることはある?」
「常識でしょ、そんなこと」 「うちの職場では、〇〇のルールになっている。理由はこうだから、次から守ってほしい」
(みんなの前で)「また君か」 (後で1対1で)「さっきの件について、少し話せるかな」

OKな言い方の共通点は、「事実」と「期待する行動」を具体的に伝え、相手に考えてもらう問いを添えていることです。強い言葉を使わなくても、必要なことは伝わります。


会話例:同じミスを繰り返す部下に

NG:感情的に叱る

上司:「また同じミスか。何回目だと思ってるんだ。ちゃんと確認しろって言っただろう」
部下:「……すみません」
→ 部下は萎縮し、原因も改善策も出てきません。

OK:事実・影響・期待・次の行動を伝える

上司:「少し時間をもらえるかな。今回の請求書の金額に誤りがあった。これで、お客様への再送対応が必要になった」(事実と影響)
部下:「はい……確認が足りませんでした」
上司:「どこで確認が漏れたと思う?」(聴く)
部下:「送る直前に、慌てて見てしまいました」
上司:「なるほど。次は、どうすれば防げそう?」
部下:「送る前にチェックリストで確認します」
上司:「いいね。あなたは丁寧な仕事ができる人だと思っているから、あえて伝えた。来週、また一緒に確認しよう」(期待と次の行動)

叱る場面でも、「責める」ではなく「一緒に改善を考える」姿勢を保つことで、部下は受け止めやすくなります。


叱った後のフォローと、気をつけたいこと

声をかける
後日、「その後どう?」と一言フォローします。改善が見られたら、すぐに認めて伝えます。
事実を
記録する
いつ、何について、どう伝えたかを簡単にメモしておきます。後から経緯を確認でき、改善の振り返りにも役立ちます。
感情的なときは
間をおく
怒りが強いときは、その場で話さず、一度間をおきます。落ち着いてから伝えるほうが、内容が正しく伝わります。
一人で
抱え込まない
対応が難しいときや、受け止め方に不安があるときは、上司や人事に相談します。組織で支えることが、管理職を守ります。

管理職の「伝え方」を、組織で整えたい企業様へ

指導とハラスメントの境界線と、上手な伝え方を学ぶ研修のご相談をお受けしています。

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まとめ

管理職の役割は、組織の目標を達成することと、部下を育てることです。部下が誤ったときに、それを正すことは、その両方に欠かせません。ハラスメントを恐れて何も言わないことは、部下にも、チームにも、管理職自身にも、良い結果をもたらしません。

大切なのは、叱るか叱らないかではなく、どう伝えるかです。目的を明確にし、事実と行動に絞り、1対1で、相手の話を聴き、次の行動で締める——この型を身につければ、ハラスメントを恐れすぎることなく、必要なことを伝えられるようになります。

まずは次に部下のミスに気づいたとき、「事実」と「期待する行動」だけを、短く伝えることから始めてみてください。


管理職向けハラスメント防止研修のご紹介(人事・研修ご担当者様へ)

「叱れない管理職」は、個人の問題ではなく、組織として「指導とハラスメントの境界線」を共有できていないことから生まれる面があります。当社では、管理職を対象に、ハラスメントを正しく理解したうえで、必要な指導をためらわずに行えるようになる研修のご相談をお受けしています。

対象 管理職、リーダー、新任マネージャーなど。階層や職種に合わせてご提案します
テーマの例 ・パワーハラスメントの基礎知識と判断の考え方
・適切な指導と不適切な言動の境界線
・事実と行動に絞った、叱り方・伝え方の実践練習
ご相談 対象人数・時間・職場の状況に合わせて、内容をご提案します。まずは、現場でお困りのことをお聞かせください

部下に考えてもらいながら成長を促す関わり方(コーチング)については、コーチング研修のページもあわせてご覧ください。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。リクルート出身。人材ビジネス業界35年以上、営業経験25年以上、管理職経験25年以上。リクルートグループ2社でトップセールスの実績を誇る。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師で、研修・セミナーの受講者は3万人以上。ハラスメント防止・コーチング・傾聴力・Z世代マネジメント・面接官トレーニングを中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。Udemy Business講師。