「部下を叱りたいが、ハラスメントと言われるのが怖くて踏み出せない」「どこまで言っていいのかわからない」——こうした悩みを持つ管理職・リーダーが、今非常に増えています。私が日本能率協会で5年ほど継続して担当している「部下・後輩の叱り方」セミナーは、私が担当するセミナーの中でも集客度が上位に入る人気セミナーです。それだけ多くの管理職が、叱り方に悩んでいるということです。この記事では、ハラスメントにならない「正しい叱り方」の技術を解説します。

この記事でわかること

  1. なぜ今、管理職は「叱り方」に悩んでいるのか——セミナー現場から見えた現実
  2. 「叱れない上司」が生む問題——叱らないことのリスク
  3. パワハラになる叱り方・ならない叱り方——決定的な違い
  4. ハラスメントにならない叱り方の5つの原則
  5. 褒め方の技術——褒めることが部下を育てる理由
  6. 「褒める・叱る」の使い分け——場面別の判断基準

なぜ今、管理職は「叱り方」に悩んでいるのか——セミナー現場から見えた現実

私は日本能率協会で「部下・後輩の叱り方」というセミナーを、5年ほど継続して担当しています。このセミナーは、私が担当するセミナーの中でも集客度が上位に入る人気テーマです。

受講者の方々からは、毎回こうした質問が寄せられます。

「こういう問題を起こす部下がいるのですが、どのように注意・叱ればいいでしょうか?」
「ハラスメントと言われるリスクがあるので、叱ることを躊躇してしまいます。どうすればいいですか?」

これらの質問が示すのは、多くの管理職・リーダーが「叱ること自体」を恐れるようになっているという現実です。パワハラという言葉が広く知られるようになった結果、「叱ったらハラスメントになるかもしれない」という不安が、正当な指導の場面でも管理職の足を止めてしまっています。

しかし、叱らないことにもリスクがあります。問題行動を放置すれば、本人の成長は止まり、チーム全体のパフォーマンスにも影響します。「叱り方がわからないから叱らない」という選択は、管理職としての役割を放棄していることになりかねません。


「叱れない上司」が生む問題——叱らないことのリスク

問題行動が「許容されている」と部下が誤解する
叱られなければ、部下は「これでいいんだ」と感じます。問題が繰り返され、やがてチーム全体に悪影響が及びます。
部下の成長機会が失われる
適切なフィードバックなしに人は成長できません。「叱らない上司」は、一見優しく見えて、実は部下の成長を阻んでいます。
真面目な部下のモチベーションが下がる
問題を起こしても何も言われない環境は、きちんと仕事をしている部下にとって不公平に映ります。優秀な人材ほど、こうした職場環境に失望します。
管理職としての信頼が失われる
「あの上司は何も言わない」という評価は、やがて「リーダーシップがない」という評価につながります。

「叱らない」ことは優しさではありません。部下の問題行動に向き合い、正しく伝えることこそが、管理職としての本当の責任です。ハラスメントを恐れるあまり、必要な指導を避けることは、管理職の役割を果たしていないことになります。


パワハラになる叱り方・ならない叱り方——決定的な違い

「叱ること」と「パワハラ」の境界線はどこにあるのか。多くの管理職が悩むこの問いに、明確な答えがあります。

❌ パワハラになる叱り方 ✅ ハラスメントにならない叱り方
人格・人間性を否定する
「お前はダメな人間だ」
行動・事実だけを指摘する
「この行動が問題だ」
大勢の前で怒鳴る・吊し上げる 1対1・個室で伝える
過去の失敗を何度も蒸し返す 今回の問題だけに絞って伝える
感情的に怒鳴る・机を叩く 冷静に・落ち着いたトーンで伝える
「なぜできないんだ」と詰める 「どうすればよかったか」を一緒に考える
長時間、繰り返し同じことを言い続ける 簡潔に・1回で要点を伝える

一言で言えば、パワハラになる叱り方は「人」を攻撃し、ハラスメントにならない叱り方は「行動・事実」を指摘します。「あなたはダメだ」ではなく「この行動は問題だ」——この違いが、叱り方のすべてを決めます。


ハラスメントにならない叱り方の5つの原則

1 事実を具体的に伝える——「なんとなく」で叱らない

「最近、仕事への姿勢が気になる」という漠然とした叱り方ではなく、「○月○日の会議で、資料を提出期限に間に合わせられなかった」という具体的な事実を伝えます。事実に基づいた指摘は、部下も反論しにくく、改善につながりやすくなります。

2 影響・結果を伝える——「なぜ問題なのか」を説明する

「ダメだ」と言うだけでは、部下はなぜ問題なのかを理解できません。「その行動によって、チームにこういう影響が出た」「顧客にこういう迷惑をかけた」という影響・結果をセットで伝えることで、指摘の意味が伝わります。

3 改善策を一緒に考える——「詰める」のではなく「考える」

問題を指摘した後は、「次はどうすればよかったと思う?」「どうしたら改善できそう?」と、本人に考えさせる問いかけをします。自分で考えた改善策は、上から押しつけられたものより実行される可能性が高くなります。

4 1対1・個室で行う——人前で叱らない

どんなに正当な指摘でも、大勢の前で叱ることは人格を傷つける行為になります。叱る場面は必ず1対1・個室で。「人前で叱る」という行為そのものが、パワハラと受け取られるリスクを高めます。

5 最後は期待を伝えて終わる——叱って終わりにしない

叱った後、暗い空気のまま終わらせないことが大切です。「あなたならできると思っているから言っている」「期待しているからこそ伝えた」という言葉を最後に添えることで、部下は「叱られた」ではなく「期待されている」という感覚を持てます。


褒め方の技術——褒めることが部下を育てる理由

叱り方と同じくらい重要なのが「褒め方」です。多くの管理職が、褒めることを照れくさく感じたり、「褒めたら調子に乗るのでは」と心配して、褒め言葉を出し惜しみします。しかし適切な褒め方は、部下の行動を強化し、成長を加速させます。

効果的な褒め方の3つのポイント

①具体的に褒める——「よかった」ではなく「あの場面での〇〇という対応が、チームにとって助かった」と具体的に伝える

②すぐに褒める——良い行動を見たら、時間を置かずにその場で伝える。時間が経つほど効果は薄れる

③人前で褒める——叱るのは個室で、褒めるのは人前で。チーム全体への波及効果も生まれる

褒めることと叱ることは、車の両輪です。褒めるだけでは緊張感がなくなり、叱るだけでは萎縮します。「よい行動は褒めて強化し、問題行動は叱って修正する」——この使い分けが、部下を育てる管理職の基本スタンスです。


「褒める・叱る」の使い分け——場面別の判断基準

褒める場面
期待以上の成果を出したとき・新しいことに挑戦したとき・改善が見られたとき・困難な状況でも諦めずに取り組んだとき。「結果」だけでなく「プロセス・姿勢」を褒めることで、部下は行動そのものを大切にするようになります。
叱る場面
ルール・約束を破ったとき・他者に迷惑をかけたとき・同じミスを繰り返すとき・誠意のない対応をしたとき。叱るのは「行動の修正が必要なとき」であり、感情をぶつける場ではありません。

まとめ:「叱ること」は管理職の責任——ハラスメントを恐れて逃げない

「ハラスメントになるのが怖くて叱れない」——この悩みは、今の時代の管理職に共通するものです。しかし叱らないことは、部下への無関心と同じです。

ハラスメントになるかどうかの境界線はシンプルです。「人」を攻撃するのではなく、「行動・事実」を指摘する。感情的に怒るのではなく、冷静に・具体的に・改善策を一緒に考える。この基本を守れば、叱ることは立派な育成の手段になります。

褒め方・叱り方は、管理職として必ず身につけておくべきスキルです。日本能率協会でのセミナーで5年間多くの受講者が集まり続けているのは、それだけこのテーマが現場の管理職にとって切実な悩みであることの証です。ぜひこの記事を、明日からの部下指導に役立ててください。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。日本能率協会専任講師として「部下・後輩の叱り方」セミナーを5年にわたり担当。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。褒め方・叱り方・ハラスメント防止・コーチング・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。2026年8月30日、著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』発売。