勤務態度が悪く、業績も上がらない部下。「この人はもう変わらないだろう」——管理職なら、そう感じたことが一度はあるかもしれません。しかし私はこれまで、見違えるように変わった部下を何人も見てきました。変わったきっかけは、本人の意識が突然変わったわけではありません。配属・人間関係・上司の関わり方が変わったとき、人は変わるのです。この記事では、私自身が見てきた事例とともに、低パフォーマーの部下が前向きに変わっていくための関わり方を解説します。

この記事でわかること

  1. 「ダメな部下」が見違えるように変わった3つの事例
  2. なぜ「環境」を変えると人が変わるのか
  3. 低パフォーマンスの原因を「本人の問題」と決めつける危険性
  4. 面談で大切なのは「気づかせる」こと——問いかけの技術
  5. 面談を重ねるときの実践ステップ
  6. すぐに環境を変えられない場合にできること

「ダメな部下」が見違えるように変わった3つの事例

私がこれまでマネジメントの現場で見てきた中で、強く印象に残っている3つの事例があります。

事例①:チームを変えたら、取り組み方が一変した

ある部下は、勤務態度があまり良くなく、業績も低迷していました。挨拶も小さく、ミーティングでも発言が少なく、正直「やる気がないのだろう」と見られていました。

あるとき、組織編成の都合で、その部下のチームを変えることになりました。特別な狙いがあったわけではなく、業務上の必要からの異動でした。

すると——その部下の仕事への取り組み方が、見違えるように変わったのです。

新しいチームでは、自分から発言し、周囲に質問し、率先して動くようになりました。以前のチームでは見られなかった姿でした。業績も着実に上がっていきました。

この経験から私は気づきました。「やる気がない」と思っていた部下は、実は「合わない環境の中で、力を発揮できなかっただけ」だったのです。

事例②:メンターを変えたら、前向きになった

もう一つの事例は、メンター制度の中でのことです。ある部下に先輩社員をメンターとしてつけていましたが、その部下は次第に元気がなくなり、報告も滞り、表情も暗くなっていきました。

メンターとの関係性に何か問題があるのではないかと考え、メンターを別の先輩社員に変更しました。

すると、その部下は再び明るさを取り戻し、前向きに仕事に取り組むようになりました。新しいメンターとは波長が合い、本音で相談できる関係を築けたようでした。

「相性」というものは、決して曖昧な話ではありません。誰と関わるかによって、人のパフォーマンスは大きく変わるのです。

事例③:営業から企画部署へ。見違えるほどの人物になった

最も印象的だったのが、ある部下の職種変更です。営業職として配属されていたその部下は、成績が伸び悩み、上司である私自身も「この子は営業に向いていないのかもしれない」と感じていました。

本人とじっくり話し合った結果、営業職から企画部署への異動を決めました。

その後、その部下は驚くほどの変化を見せました。企画書の作成、データの分析、社内提案——営業では発揮できなかった力を存分に発揮し、社内でも頼られる存在になっていったのです。

「営業ができない人=ダメな人材」ではありませんでした。「その人の強みが活きる場所」が、単に営業ではなかったというだけだったのです。


なぜ「環境」を変えると人が変わるのか

3つの事例に共通しているのは、「本人の能力や性格」が変わったわけではないということです。変わったのは「環境」でした。

人は「関係性」の中でパフォーマンスを発揮する
同じ人でも、誰と一緒に働くかによって発言量・主体性・モチベーションは大きく変わります。「この人は元気がない」と見えても、それは特定の関係性の中だけの姿かもしれません。
強み・特性が活かせる場所は人によって違う
営業の数字を追う環境で輝く人もいれば、企画・分析・サポートといった環境で輝く人もいます。「成果が出ないのは本人の努力不足」という判断は、配置のミスマッチを見逃すリスクがあります。
「自分には合わない」という違和感が、行動にブレーキをかける
無意識のうちに「ここでは自分の力が出せない」と感じていると、人は本来の力を抑えてしまいます。これは「やる気がない」のではなく、本人すら気づいていない心理的なブレーキです。

もちろん、すべての低パフォーマンスが「環境の問題」というわけではありません。しかし、「この人は能力がない」「やる気がない」と決めつける前に、環境・関係性に原因がないかを丁寧に見極めることが、管理職に求められる視点です。


低パフォーマンスの原因を「本人の問題」と決めつける危険性

多くの管理職は、成果が出ない部下を見ると、つい「本人の能力・意欲の問題」と判断してしまいます。しかしこの決めつけには、大きなリスクがあります。

「本人の問題」と決めつけることのリスク

・本来活躍できたはずの人材を、見限ってしまう
・本人も「自分はダメな人間だ」と思い込み、さらに意欲を失う
・配置・関係性という改善可能な要因に、誰も手をつけない
・組織全体が「合わない環境」を放置し続けることになる

低パフォーマンスを評価する前に、まず確認すべきことがあります。

  • この人は、今のチーム・上司との関係でどんな様子か?
    他のチームや別の上司との関係では、印象が変わる可能性はないか。
  • この人の強みは、今の業務内容と合っているか?
    営業が苦手でも、分析・企画・サポートで力を発揮できる可能性はないか。
  • 本人はこの状況をどう感じているか?
    本人の言葉で、今の環境への思いを聞いたことがあるか。

面談で大切なのは「気づかせる」こと——問いかけの技術

環境を変える前にも、変えた後にも、最も重要なのが面談を通じた本人との対話です。ここで大切なのは、上司が答えを与えることではありません。上司が問いかけ、部下が考え、話しながら自分自身で気づいていくというプロセスです。

なぜ「気づかせる」アプローチが大切なのか

「あなたはこうすべきだ」と上司が答えを与えても、本人が納得していなければ行動は変わりません。しかし自分自身で「気づいた」ことは、行動を変える力を持ちます。面談の目的は、本人の中にすでにある気づきを、問いかけによって引き出すことです。

面談で使える問いかけの例

現状を聴く
「今の仕事をしていて、どんなときにやりがいを感じますか?」
「逆に、どんなときにしんどさ・違和感を感じますか?」
強みを聴く
「これまでの仕事の中で、一番楽にできた・得意だと感じたことは何ですか?」
「人からよく褒められること、感謝されることはありますか?」
理想を聴く
「もし今の環境を変えられるとしたら、どんな働き方をしてみたいですか?」
「3年後、どんな仕事をしている自分を想像できますか?」
関係性を聴く
「今のチームでの人との関わりは、どんな感じですか?」
「相談しやすい人はいますか?逆に、話しにくいと感じる相手はいますか?」

こうした問いかけを重ねていく中で、本人が「実は自分は〇〇が苦手で……」「もっと△△のような仕事がしたいのかもしれません」と、自分自身の気持ちに気づいていく瞬間が生まれます。それが、変化への第一歩になります。


面談を重ねるときの実践ステップ

低パフォーマンスの部下との面談は、一度で終わるものではありません。継続的に対話を重ねることが大切です。

ステップ①:評価ではなく「理解」から始める

最初の面談では、評価や指摘から入らないことが重要です。「最近どう?」「何か困っていることはある?」という、本人を理解しようとする姿勢から始めます。「業績が悪い」という指摘から入ると、本人は防御的になり、本音を話さなくなります。

ステップ②:「事実」と「本人の気持ち」を分けて聴く

「最近の業績はこういう状況です」という事実の共有と、「それについて、あなたはどう感じていますか?」という気持ちの確認を分けて行います。事実を伝えるだけでは、本人の本音は見えてきません。

ステップ③:可能性を一緒に探る

本人の話を聴く中で、「チームを変えてみる」「メンターを変える」「業務内容を変える」といった選択肢を一緒に検討します。一方的に決めるのではなく、本人に「どう思う?」と確認しながら進めることで、変化への納得感が生まれます。

ステップ④:変化の後も継続してフォローする

環境を変えたら終わりではありません。「新しい環境はどう?」「何か困っていることはある?」と、変化後も定期的にフォローを続けることが、変化を定着させる鍵になります。

ステップ⑤:小さな変化を見つけて言葉にする

本人に変化が見られたら、「最近、〇〇な様子が増えてきたね」と具体的に言葉にして伝えます。本人が気づいていない自分の変化を、上司が見ていて伝えてくれることは、大きな自信につながります。


すぐに環境を変えられない場合にできること

「チームを変える」「メンターを変える」「職種を変える」——これらは理想ですが、組織の事情で簡単にできない場合も多くあります。そんなときにできることもあります。

業務の一部だけを変えてみる
完全な異動ができなくても、担当業務の一部を変える・新しい役割を任せるなど、小さな変化から試すことができます。
関わる人を増やす
上司との関係が難しい場合でも、別の先輩・他部署のメンバーと関わる機会をつくることで、新しい人間関係から変化が生まれることがあります。
面談の頻度を増やす
環境を変えられなくても、対話の量を増やすことで、本人の気づきの機会・モチベーションの回復につながることがあります。

まとめ:人は「環境」と「対話」で変わる

チームを変えたら見違えるように変わった部下。メンターを変えたら前向きになった部下。営業から企画に職種を変えたら、見違えるほどの人物になった部下——これらは決して特別な例外ではありません。

「ダメな部下」というレッテルの前に、環境・関係性・配置に原因がないかを見極めること。そして、面談では答えを与えるのではなく、問いかけを通じて本人が自分自身で気づいていくプロセスを支えること。

これが、低パフォーマンスの部下と向き合う管理職に求められる、最も大切な姿勢だと私は考えています。

「この人はもう変わらない」と決めつける前に、まず一度、丁寧な対話の時間を持ってみてください。そこから、思いがけない変化が始まるかもしれません。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。コーチングマネジメント・1on1・傾聴力・ハラスメント防止・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。