「内定を出せば、あとは入社を待つだけ」——そう考えている採用担当者は少なくありません。しかし内定承諾は、入社の確約ではありません。私が人材紹介会社でキャリアアドバイザーとして転職者に関わっていた頃、内定承諾後にフォローがなかったために他社に流れてしまったケースを実際に見てきました。この記事では、内定承諾後の辞退を防ぐための動機づけの技術を解説します。

この記事でわかること

  1. 「安心してフォローがなかったために辞退された」——キャリアアドバイザー時代に見た実例
  2. 内定承諾書に法的拘束力がないという現実
  3. なぜ内定承諾後に候補者の気持ちは揺れるのか
  4. 内定者フォローでやるべきこと——具体的な施策
  5. 内定者フォローでやってはいけないこと
  6. 入社日までのフォロースケジュール例

「安心してフォローがなかったために辞退された」——キャリアアドバイザー時代に見た実例

私が人材紹介事業に関わっていた頃、キャリアアドバイザーとして多くの転職希望者と面談をしてきました。その中で、実際にこんなケースがありました。

ある転職者が、企業から内定を獲得しました。企業側も候補者も、双方が納得した上での内定でした。しかし——内定承諾後、その企業から約1ヶ月もの間、一切の連絡・フォローがなかったのです。

入社日までの期間、候補者は不安を抱えたまま過ごすことになりました。「本当にこの選択でよかったのだろうか」「あの会社は自分のことを本当に必要としているのだろうか」——そうした揺らぎが積み重なっていく中で、別の企業からより熱心なアプローチを受け、結果としてその候補者は内定を辞退し、他社に転職を決めてしまいました。

こうしたケースを、私はキャリアアドバイザーとして1社実際に経験しています。企業側からすれば「もう内定は承諾されたのだから安心」という気持ちがあったのかもしれません。しかしその安心こそが、フォローを怠らせ、結果として辞退という事態を招いたのです。


内定承諾書に法的拘束力がないという現実

多くの企業が、内定承諾書に署名・捺印をもらうことで「これで安心」と考えがちです。しかし、ここには重要な誤解があります。

内定承諾書にサインをもらっても、それには法的な拘束力はありません。

日本の労働法では、労働者には「退職の自由」が保障されています。内定承諾は労働契約の始期を示すものであり、候補者が気持ちを変えて入社を辞退することを、法的に強制的に止める手段はありません。

つまり、内定承諾書は「意思確認の記録」であって、「入社の保証」ではないのです。だからこそ、承諾書にサインをもらった後も、候補者の入社意欲を維持し続けるための働きかけが不可欠になります。


なぜ内定承諾後に候補者の気持ちは揺れるのか

連絡が途絶えることへの不安
内定承諾後、何の連絡もない期間が続くと、候補者は「本当に必要とされているのか」という不安を感じ始めます。
他社からの新たなオファー・アプローチ
転職活動中の候補者には、他社からのスカウト・選考が並行して進んでいることも珍しくありません。より熱心にアプローチしてくる企業に気持ちが動きやすくなります。
現職からの引き止め
退職の意向を伝えた際、上司や会社から昇給・異動などの条件を提示されて引き止められるケースは多くあります。
「本当にこの選択でよかったのか」という自問
大きな決断をした後、人は誰でも不安になります。この不安を解消してくれる存在がなければ、気持ちはどんどん内向きになっていきます。

内定から入社までの期間は、候補者にとって「本当にこの決断でよかったのか」を確かめる時間でもあります。この期間に企業側から何のアプローチもなければ、その不安は他社への流出につながりかねません。


内定者フォローでやるべきこと——具体的な施策

①内定通知後、できるだけ早くお祝いの連絡をする

内定を伝えた直後の反応が、候補者の第一印象を左右します。「一緒に働けることを楽しみにしています」という歓迎の気持ちを、できるだけ早く伝えます。

②定期的な連絡・接点を作る

入社日まで期間が空く場合は、1ヶ月に1回程度は連絡を取ることを意識します。「順調にお過ごしですか」「何か気になることはありませんか」という軽い声かけだけでも、候補者の安心感につながります。

③配属先の上司・メンバーとの接点を作る

入社前に、実際に一緒に働くことになる上司やメンバーと顔合わせの機会を設けます。「この人たちと働くのか」というイメージが具体的になるほど、入社への実感と安心感が高まります。

④懇親会・食事会などのカジュアルな場を設ける

選考中には見えなかった社内の雰囲気を体験してもらうことで、「この会社で働くイメージ」がより鮮明になります。他の内定者がいる場合は、内定者同士のつながりを作ることも効果的です。

⑤入社後の流れ・業務内容を具体的に伝える

「入社後、最初の1ヶ月はどんな流れになるのか」を事前に伝えることで、候補者の不安を解消し、入社への心構えができます。見通しが持てることは、安心感に直結します。

⑥不安・疑問に思っていることがないか、率直に聞く

「何か気になっていることはありますか?」と率直に聞くことで、候補者が一人で抱えている不安を早期にキャッチできます。現職からの引き止めにあっている場合も、早めに把握できれば対応の余地が生まれます。


内定者フォローでやってはいけないこと

承諾書にサインをもらって、そのまま放置する
最も避けるべき失敗です。「承諾=安心」ではないことを、常に意識する必要があります。
過度に頻繁な連絡でプレッシャーを与える
逆に連絡が多すぎたり、圧をかけるような内容だと、候補者は負担に感じます。適度な頻度と温度感を保つことが大切です。
事務的な連絡だけで終わらせる
入社手続きの連絡だけを事務的に送るのではなく、「歓迎している」という気持ちが伝わるコミュニケーションを心がけます。

入社日までのフォロースケジュール例

内定通知直後
お祝いのメッセージ・歓迎の気持ちを伝える連絡
承諾後1週間
入社手続きの案内とあわせて、配属先の紹介・雰囲気を伝える
入社1ヶ月前
配属先上司との顔合わせ・懇親の場を設定
入社2週間前
入社当日の流れ・持ち物・服装などの具体的な案内
入社直前
最終確認の連絡と「お待ちしています」という一言

まとめ:内定承諾は「ゴール」ではなく「新たなスタート」

私がキャリアアドバイザーとして見てきたように、内定承諾後にフォローがなかったために辞退される候補者は、実際に存在します。内定承諾書に法的拘束力がない以上、企業側が候補者の気持ちを維持し続ける努力を怠れば、その候補者は簡単に他社へ流れてしまいます。

「内定を出せば終わり」ではなく、「内定を出してからが本当のスタート」——この意識を持つことが、内定辞退を防ぎ、確実な入社につなげる第一歩です。

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田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界34年以上、営業・営業マネージャー経験25年以上。人材紹介事業でのキャリアアドバイザー経験も持つ実践派講師。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う。著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』好評発売中。Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する