ハラスメント相談窓口は、「設置しただけ」では機能しません。実際に相談が来たとき、担当者が何をどう聴き、どう記録し、どう事実確認を進めるか——この実務的な手順を知らないまま窓口を運用すると、対応の遅れや不用意な言葉が、被害者への二次被害を生んでしまいます。この記事では、相談の受付から解決までの流れ、最初に確認すべき項目、記録の書き方、言ってはいけない言葉、行為者への事実確認の方法まで、相談窓口担当者が実務で使えるマニュアルとして解説します。

この記事でわかること

  1. 「事件が起きてから」では遅すぎる——私が見た現実
  2. 相談受付から解決までの全体フロー
  3. 相談を受けたら最初に確認する項目
  4. 相談記録の書き方——「事実」と「感情」を分けて書く
  5. 相談者に伝えてはいけない言葉
  6. 行為者への事実確認方法——公平性を保つ聴き方
  7. 守秘義務と二次被害防止の徹底
  8. 相談窓口担当者向け研修のすすめ
  9. ダウンロードできる相談対応チェックリスト

「事件が起きてから」では遅すぎる——私が見た現実

私が研修やコンサルティングで関わっている、ある従業員数200名規模のメーカー企業での出来事です。この会社には、これまでハラスメントに関する相談窓口がきちんと機能していませんでした。「うちは大丈夫」という空気が、社内に長く流れていたのです。

ある日、社内の管理職がセクシャルハラスメント事案を起こしました。被害を受けた社員からの訴えを受け、会社として対応を検討する場が持たれました。

そこで、70歳を超える古参の役員が、こう提案したそうです。

「この件は、内々に処理して、なかったことにしよう」

この会社は結局、窓口も対応の型もないまま、その場しのぎの対応をせざるを得ませんでした。「事件が起きてから、やっと動き出す」——これが、多くの中小企業の現実です。この経験から、私は「窓口を作る理由」だけでなく、「実際に相談が来たときに何をすべきか」という実務レベルのマニュアルの重要性を強く感じるようになりました。


相談受付から解決までの全体フロー

まず、相談窓口担当者が全体像を把握できるよう、受付から解決までの流れを整理します。

1
相談受付——相談者からの申し出を受け、面談の日時・場所を調整する
2
相談者からの聞き取り——事実関係・時系列・希望する対応を丁寧にヒアリングする
3
社内での方針検討——窓口担当者・人事責任者などで、事実確認を進めるかどうかを判断する
4
行為者への事実確認——公平な立場で、行為者からも事実関係を聴き取る
5
必要に応じて第三者・目撃者への確認——双方の主張に食い違いがある場合、周囲の状況を確認する
6
事実認定と措置の決定——確認した事実に基づき、懲戒・指導・配置転換などの措置を検討する
7
相談者へのフォロー・再発防止策の実施——対応結果を相談者に伝え、職場環境の改善につなげる

このフローの中でも、「①受付」「②聞き取り」「④事実確認」の3段階が、対応全体の質を最も大きく左右します。以降、この3段階を中心に実務的なポイントを解説します。


相談を受けたら最初に確認する項目

相談者と面談を始めたら、まず次の項目を漏れなく確認します。焦って本題に入る前に、この情報を落ち着いて押さえることが、その後の対応全体の土台になります。

□ 相談者の氏名・所属・連絡先
□ いつ、どこで、何が起きたか(できるだけ具体的な日時・場所)
□ 行為者は誰か(複数人の場合は全員)
□ 目撃者・同席者はいたか
□ 同様のことが過去にもあったか、頻度・継続期間
□ 会社にどのような対応を望んでいるか(事実確認のみ/行為者への指導/異動など)
□ 相談内容を他の誰かにすでに話しているか
□ 現在、体調や精神面で心配な点はないか

特に「会社にどのような対応を望んでいるか」を早い段階で確認することは重要です。相談者の意向を無視して事を進めると、かえって相談者の負担を大きくしてしまうことがあります。


相談記録の書き方——「事実」と「感情」を分けて書く

相談記録は、後の事実確認・処分検討・万一の紛争時の証拠として非常に重要です。記録を取るときは、「相談者が話した事実」と「相談者の感情・受け止め方」を分けて書くことが基本原則です。

❌ 曖昧な記録 ✅ 適切な記録
「上司にひどいことを言われて、つらかったそうだ」 「〇月〇日、会議室で上司から『お前は使えない』と言われた(相談者本人の発言)。相談者は『眠れない日が続いている』と述べた」

記録に残すべき項目

・面談日時・場所・同席者
・相談者の発言内容(できるだけ本人の言葉のまま、要約せず記録)
・日時・場所・関係者など、事実に関する具体的情報
・相談者が示した客観的な証拠の有無(メール・メッセージ・録音など)
・窓口担当者が伝えた内容(秘密保持の説明など)

記録は「誰が読んでも同じ事実が伝わる」ように、憶測を交えず客観的に書くことを徹底してください。


相談者に伝えてはいけない言葉

良かれと思った一言が、相談者をさらに傷つけ、二次被害を招くことがあります。次のような言葉は、たとえ励ますつもりであっても避けてください。

❌ 相談者に言ってはいけない言葉の例
「それくらい、よくあることだよ」(矮小化)
「あなたにも、何か原因があったんじゃないの」(責任の押しつけ)
「気にしすぎじゃない?」(感じ方の否定)
「事を大きくしないほうがいいと思うよ」(相談の抑制)
「本当にそんなことがあったの?」(疑い・不信)
「〇〇さんがそんなことをするとは思えない」(行為者の擁護)

これらの言葉には共通点があります。相談者の受け止め方や事実そのものを、窓口担当者が勝手に評価・判断してしまっていることです。窓口担当者の役割は、事実を丁寧に聴き取ることであり、その場で真偽を判断したり、相談者の気持ちに評価を下したりすることではありません。


行為者への事実確認方法——公平性を保つ聴き方

相談者からの聞き取りが終わったら、行為者本人にも事実確認を行います。ここで公平性を欠くと、行為者側からの反発・別のハラスメント主張につながるリスクがあります。

「疑いをかけている」という態度を取らない
「あなたはこういうことをしましたよね」と決めつけるのではなく、「このような相談が寄せられているので、事実確認をさせてください」と中立的に伝えます。
相談者が特定できる詳細は伏せる
相談者への報復を防ぐため、事実確認の際は必要最小限の情報にとどめ、誰が相談したかが特定されないよう配慮します。
行為者にも弁明の機会を十分に与える
一方的に断罪するのではなく、行為者の認識・言い分も丁寧に聴きます。事実に食い違いがある場合は、その食い違い自体を記録します。
複数名で対応し、一人の判断に依存しない
窓口担当者一人だけで判断せず、複数名、必要に応じて社労士・弁護士など第三者を交えて事実確認を行います。

守秘義務と二次被害防止の徹底

ハラスメント相談対応で最も重要な原則の一つが、守秘義務の徹底です。情報の管理を誤ると、相談者に深刻な二次被害を与えることになります。

守秘義務・二次被害防止の基本ルール

・相談内容は「対応に必要な範囲の関係者」以外には共有しない
・相談したことを理由に、異動・降格・評価を下げるなど不利益な扱いを絶対にしない(法律で禁止)
・相談記録は、鍵のかかる場所やアクセス制限のあるデータで厳重に管理する
・「誰が相談したか」が社内で噂にならないよう、対応の各段階で情報の取り扱いに注意する
・相談者・行為者双方に対し、対応中の連絡先・進捗確認のルールを明確にする

「相談したら、かえって自分の立場が悪くなった」——これが起きた瞬間、相談窓口は誰からも信頼されなくなります。守秘義務の徹底は、窓口が機能し続けるための生命線です。


相談窓口担当者向け研修のすすめ

ここまでご紹介したフロー・聴き方・記録の取り方は、知識として読むだけでなく、実際にロールプレイなどを通じて体で覚えることが重要です。

窓口担当者が対応を誤ると、たとえ悪気がなくても、相談者への二次被害・行為者への不当な扱い・会社としての法的リスクにつながります。私はこれまで、多くの企業の相談窓口担当者向け研修に携わってきましたが、実際のケースを想定したロールプレイを行うことで、「知っているつもり」から「実際にできる」への変化を数多く見てきました。

窓口担当者研修では、相談受付のロールプレイ・NGワードの実践演習・事実確認の進め方・記録の書き方の添削などを組み合わせることで、実際の相談対応に自信を持って臨めるようになります。


ダウンロードできる相談対応チェックリスト

ここまでの内容を、相談対応の現場ですぐに確認できるチェックリストとしてまとめました。面談前・面談中・面談後の3つの場面で使えます。

面談前
□ 相談しやすい個室・時間帯を確保したか
□ 記録用のメモ・様式を用意したか
□ 秘密保持について、どう伝えるか準備したか
面談中
□ 相談者を否定する言葉を使っていないか
□ 事実(5W1H)を具体的に確認できたか
□ 相談者の希望する対応を確認したか
□ 秘密保持を明確に伝えたか
□ 「事実」と「感情」を分けてメモを取っているか
面談後
□ 記録を客観的な言葉で整理し直したか
□ 対応方針を複数名で確認したか
□ 次のステップと連絡方法を相談者に伝えたか
□ 情報を必要な範囲以外に共有していないか

このチェックリストを窓口担当者間で共有し、誰が対応しても一定の質を保てる仕組みにしておくことをおすすめします。


まとめ:「窓口があること」より「正しく対応できること」が重要

相談窓口の設置は、法的な義務であると同時に、社員を守るための土台です。しかし、窓口を作っただけでは不十分で、実際に相談が来たときに「何を確認し」「どう記録し」「どう聴くか」という実務レベルの型を持っていることが、本当の意味での機能する相談窓口を作ります。

今日ご紹介したフロー・確認項目・NGワード・チェックリストを、ぜひ社内の相談窓口担当者と共有してください。事件が起きる前に、対応の型を整えておくこと——それが、企業と社員の両方を守る確実な備えになります。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。多数の企業顧問を経験し、ハラスメント相談窓口の整備・対応体制づくりを支援。相談窓口担当者向け研修にも定評があり、パワハラ・セクハラ・カスタマーハラスメント防止・アンガーマネジメント・心理的安全性を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。