「一生懸命説明しているのに、顧客の反応が薄い」「提案書は丁寧に作ったのに、なぜか刺さらない」——そんな経験はないでしょうか。説明の上手い営業と下手な営業の差は、話す内容ではなく「話す順番」にあります。この記事では、顧客の心が動く「提案の順番」を、具体的な構成と言葉の例とともに解説します。
この記事でわかること
- なぜ「説明の順番」で結果が変わるのか
- 説明が下手な営業がやりがちな順番のミス
- 顧客の心が動く提案の順番(PASONAの法則)
- 順番を意識した提案トーク・提案書の作り方
- 「伝わる説明」を作る3つのポイント
なぜ「説明の順番」で結果が変わるのか
同じ情報を伝えても、順番が違うだけで相手の受け取り方はまったく変わります。これは営業に限らず、人間の情報処理の仕組みに起因します。
人が話を聴くとき、脳は常に「この話は自分に関係あるか?」「聴き続ける価値はあるか?」を無意識に判断しています。この判断が「自分に関係ない」と出た瞬間、相手は心のシャッターを閉めます。どれだけ良い提案でも、その先の言葉は届かなくなります。
重要な視点
顧客が提案を聴く前に無意識に問いかけているのは「で、それは私の何の役に立つの?」です。この問いに早い段階で答えられる説明は「刺さる」。答えられない説明は「何が言いたいのかわからない」と感じさせます。
つまり「説明が下手」と言われる営業パーソンの多くは、情報量や説明力の問題ではなく、「相手が聴く気になる順番」を知らないまま話しているのです。
説明が下手な営業がやりがちな「順番のミス」
多くの営業パーソンが無意識にやってしまっている、顧客の心が閉じる説明の順番があります。
1 「会社紹介」から始める
「弊社は創業〇〇年で、グループ全体で△△名の社員が…」と自社紹介から始める営業は非常に多いです。しかし顧客はまだ「この会社・この営業が自分に何をしてくれるのか」がわかっていない状態です。
顧客の心の声
「会社の規模や歴史は聞いていない。自分の課題をどう解決してくれるのかを聞きたい」
2 「商品・サービスの特徴」から入る
「弊社の〇〇は、△△機能があり、□□という点で他社と違います」と商品説明から始めるパターンです。顧客が「自分の課題にどう関係するか」をまだ理解していない段階で機能・スペックを並べても、情報として処理されるだけで「買いたい」という感情には届きません。
顧客の心の声
「機能はわかった。でもそれが自分の会社の何の問題を解決してくれるのかがわからない」
3 「価格・条件」を後回しにしすぎる
価格提示を最後まで引っ張りすぎると、顧客は「どうせ高いんだろう」「予算に合わないかも」という不安を抱えたまま説明を聴き続けることになります。適切なタイミングで価格感を示すことが、顧客の安心につながります。
顧客の心の声
「説明はよかったけど、価格を聞いたら現実的でなかった。最初から言ってくれていれば時間を無駄にしなかった」
顧客の心が動く提案の順番——PASONAの法則
「伝わる説明・提案」には共通した順番があります。マーケティングの世界でも広く使われているPASONAの法則は、営業の提案トークや提案書の構成にも非常に有効です。
PASONAの核心:「問題提起→課題の深掘り」でまず顧客の関心を引きつけ、「解決策→提案」という順番で自然に購買意欲を高める。商品の特徴より先に「あなたの課題」を語ることが鉄則です。
順番を意識した提案トーク・提案書の作り方
PASONA順番で組み立てた提案トークの例
たとえば「営業研修」を提案する場面でPASONAを使うとこうなります。
PASONA順の提案トーク例
P(問題):「御社の営業チームでは、提案の場面で受注につながらないことが課題とお聞きしました。特に若手の提案力のばらつきが大きく、ベテランに依存している状況かと思います」
A(深掘り):「この状況が続くと、ベテランへの負担が増加する一方、若手が育ちにくい環境になります。結果として採用コストをかけても定着しない、という悪循環につながりかねません」
S(解決策):「弊社の営業提案力強化研修では、若手が自走できる提案の型を習得することに特化しています。受講後3ヶ月で受注率が平均〇〇%改善されたデータがあります」
O(提案):「まず6名様で2日間のプログラムから始められます。費用は〇〇円で、フォロー研修も含まれています」
N(絞り込み):「来期の営業計画に間に合わせるには、今月中にスタートするのが理想的です」
A(行動):「まず来週、具体的なプログラム内容をご説明する場をいただけますでしょうか?」
提案書の構成もPASONAで組み立てる
提案書(資料)の構成もPASONAに沿って作ると、読む側が自然に「これは自分ごとだ」と感じながら読み進めます。
| よくある提案書の順番(NG) | PASONAに沿った提案書の順番(推奨) |
|---|---|
|
1. 会社紹介・実績 2. サービスの概要 3. 機能・特徴一覧 4. 料金・プラン 5. 導入事例 6. まとめ・お問い合わせ |
1. 御社の現状・課題の整理(P) 2. 課題を放置した場合のリスク(A) 3. 解決策の方向性(S) 4. 弊社サービスの詳細・料金(O) 5. 導入事例・実績(信頼補強) 6. 導入スケジュール・次のステップ(N・A) |
「会社紹介・実績」は提案書の冒頭ではなく、解決策を提示した後の「信頼補強」として使うのが効果的です。顧客がすでに「この解決策が必要だ」と感じた後に実績を見せることで、「この会社なら任せられる」という確信につながります。
「伝わる説明」を作る3つのポイント
PASONAの順番を押さえたうえで、さらに「伝わる説明」にするための3つのポイントを紹介します。
1 「数字」で具体性を出す
「効果があります」「改善されます」という抽象的な言葉は記憶に残りません。「受講後3ヶ月で受注率が平均18%向上」「導入企業の92%が6ヶ月以内に成果を実感」など、具体的な数字を使うことで、説明に説得力が生まれます。
言い換え例
✗「多くのお客様に喜んでいただいています」
✓「導入企業350社のうち、87%が1年以内にリピート導入しています」
✗「短期間で効果が出ます」
✓「平均導入後2ヶ月で現場からの変化が報告されています」
ポイント:抽象的な表現を数字に変えるだけで信頼度が一気に上がる
2 「ストーリー」で感情を動かす
人は「情報」より「物語」に感情が動きます。導入事例や成功体験をストーリー形式で語ることで、顧客は「自分もそうなれるかもしれない」というイメージを持ちやすくなります。
ストーリー型の事例紹介の例
✗「〇〇社に導入しました。受注率が上がりました」(情報の羅列)
✓「製造業の〇〇社さんは、ちょうど御社と同じ課題——若手の提案力のばらつき——に悩んでいました。研修を導入して3ヶ月後、若手から初めて大口契約が生まれました。営業部長から『若手が自分で動くようになった』という言葉をいただいています」(ストーリー)
ポイント:事例は「状況→課題→変化→結果」の4点セットで語る
3 「一文一意」で簡潔に伝える
一文の中に複数の情報を詰め込むと、顧客は「何が言いたいのかわからない」と感じます。一文で一つのことだけを伝える——この原則を守るだけで、説明のわかりやすさは大きく変わります。
言い換え例
✗「弊社の研修は、若手からベテランまで対応しており、カスタマイズも可能で、オンラインでも受講できる上に、費用対効果も高いと評判です」(一文に詰め込みすぎ)
✓「弊社の研修は、若手からベテランまで対応しています。カスタマイズも可能です。オンライン受講にも対応しています。費用対効果の高さも多くのお客様から評価いただいています」(一文一意)
ポイント:「短く切る」だけで聴き手の理解速度が上がる
まとめ:「何を伝えるか」より「どの順番で伝えるか」
説明が上手い営業と下手な営業の差は、知識量でも話術でもありません。「顧客が聴く気になる順番」を知っているかどうか——それだけです。
PASONAの法則に沿って「まず課題→リスク→解決策→提案→行動」の順番で伝えることで、顧客は自然に「これは自分に必要だ」という感覚を持ちながら話を聴いてくれます。提案書の構成も同じです。会社紹介・商品説明から始めるのではなく、「あなたの課題」から始めることが、選ばれる提案の出発点です。
まずは次の商談から、PASONAの順番を意識して話の構成を変えてみてください。顧客の反応が変わることを実感できるはずです。
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田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。提案営業力強化・面接官トレーニング・傾聴力・ハラスメント防止を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。