「自分はちゃんと部下の話を聴いているつもりだ」——そう思っている管理職ほど、部下から「あの上司は話を聴いてくれない」と評価されているケースが少なくありません。かく言う私自身も、若い頃に同じ失敗をした一人です。この記事では、無意識にやってしまいがちな3つの悪習慣と、その改善ポイントを解説します。
「聴く」と「聞く」はまったく別物
まず前提として確認したいのが、「聴く」と「聞く」の違いです。「聞く」は音として言葉が耳に入ること。一方、「聴く」は相手の言葉の背景にある感情や意図まで理解しようとする、能動的な行為です。
部下との会話において、多くの管理職は「聞いている」けれど「聴けていない」状態に陥っています。では具体的に、どんな習慣がその状態を生み出しているのでしょうか。
私自身が犯した「聴けていない上司」の失敗
3つの悪習慣を解説する前に、私自身の体験談をお話しさせてください。
私が営業マネージャーになりたての頃のことです。自分でも大口の顧客を担当しながら、メンバーのマネジメントも担うプレイングマネージャーとして働いていました。自分の担当顧客への営業活動をこなしながら、チームメンバーへの指示・指導も行う——毎日が目の回るような忙しさでした。
ある日のこと。新入社員のI君が、明るい声で私のところへ駆け寄ってきました。
I君の声は弾んでいました。新人にとって初めての受注の予感——どれほど嬉しかったか、私にもよくわかります。
しかしそのとき私は、お客様へのメールを昼休憩の12時までに送らなければならず、PCに向かって文章を書いている最中でした。私はI君にこう言いました。
そして私は、背中をI君に向けたまま、PCのキーボードを叩きながら彼の報告を聞きました。
これを、数回繰り返しました。
するとある日から、I君も、他のメンバーも、私に嬉しい報告をしに来なくなりました。
そうです。悪いのは私でした。
「話は聞いている」と言いながら、私は一度も振り返らなかった。目を合わせなかった。I君の弾んだ声に、体ごと向き合わなかった。彼が感じた「寂しさ」は、今から思うと当然のことでした。
あのとき、こうすべきだった
PCから手を離し、I君の方に振り返り、目を見て「それは嬉しいな!どんな話だったか聞かせて」と言う。
もしどうしてもメールを先に送らなければならなかったなら——「I君、ちょっとだけ待って。あと10分でメールを送り終わるから、そうしたらちゃんと聞かせて」と約束して、手が空いてから全力で聴く。
たったそれだけのことでした。しかし私はそれができなかった。さぞかし、メンバーたちに寂しい思いをさせてしまったことだろうと、今でも申し訳なく思っています。
この失敗から私が学んだのは、「聴いているつもり」と「聴いてもらえた」の間には、深い溝があるということです。相手に「聴いてもらえた」と感じてもらうためには、言葉だけでなく、体・視線・表情のすべてで向き合うことが必要です。
3つの悪習慣
1 話の途中で「結論」を先に求める
「で、結局どうしたいの?」「要するに何が言いたいの?」——こうした言葉を部下の話の途中で発してはいないでしょうか。
よくあるシーン
部下が「先日のお客様のことなんですが、いろいろ状況が複雑で…」と話し始めた瞬間に「で、クレームなの?それとも契約の話?」と遮ってしまう。
上司側には「効率的に情報を整理したい」という意図があるかもしれません。しかし部下にとっては「また話を聴いてもらえなかった」という印象になります。
人は「結論から話せる」人ばかりではありません。言語化が苦手な人ほど、順を追って話すことで自分の考えを整理しています。その整理の時間を奪ってしまうことが、信頼関係の毀損につながります。
影響:部下が「相談しにくい」と感じるようになる
2 聴きながら「自分の答え」を用意している
これは非常に多くの管理職に見られる習慣です。部下が話している間、表面上は聴いているように見えますが、頭の中では「この件、自分ならこうするな」「それは△△の原因じゃないか」と次に言うべきことを組み立てています。
よくあるシーン
部下が「このプロジェクトがうまくいかない理由を考えているんですが…」と言い始めると、すでに「それはスケジュール管理の問題だな」と頭の中で結論を出し、部下の話が終わるのを「待っている」状態になる。
この状態では、部下が話しているうちに重要な情報や感情のサインを見落とすことがあります。また、自分が用意した答えを押しつけることになりやすく、部下は「どうせ自分の話を聴く気がない」と感じます。
聴く姿勢とは、「相手の話に100%の関心を向けること」です。自分の考えは、相手が話し終わってから向き合えばいい。
影響:部下が「結局、上司の意見が正解になる」と感じるようになる
3 体を向けずに「ながら聴き」をする
これは、私自身がI君にしてしまったことです。「話は聞いているから」と言いながら、PCの画面から目を離さない。スマートフォンを操作しながら「うん、うん」と相槌を打つ。書類を見ながら返事をする——こうした「ながら聴き」が、部下を深く傷つけています。
よくあるシーン
部下が嬉しそうに報告に来たのに、上司はPC画面を向いたまま「うん、そうか。で?」と応じる。部下は「また聴いてもらえなかった」と感じ、次第に報告しに来なくなる。
言葉として「聞いている」と言っていても、体が向いていない・目が合っていない・表情がない——これらのサインは「あなたの話はそれほど大切ではない」というメッセージとして、部下に伝わってしまいます。
もし本当に手が離せないのであれば、「あと10分だけ待って。手が空いたら必ちゃんと聞くから」と約束して、時間をつくる。それだけで、部下への敬意は十分に伝わります。
影響:部下が嬉しいことも困ったことも、報告しなくなる
すぐに実践できる「聴き方」の改善ポイント
3つの習慣を見直すだけで、部下との関係は大きく変わります。具体的には次のことを意識してみてください。
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部下が話し始めたら、体ごと向き直る
PCやスマートフォンから目を離し、部下の方に体を向ける。これだけで「あなたの話を受け取る準備ができています」というメッセージになります。 -
今すぐ聴けないなら「〇分後に必ず聴く」と約束する
「ちょっと待って」だけでは不安です。「あと10分でメールを送り終わるから、そうしたら聞かせて」と具体的に約束する。そして必ず時間を守る。 -
話が終わるまで、絶対に口を挟まない
まず30秒だけ待つ意識を持つ。「次に何を言うか」ではなく「今、相手は何を伝えようとしているか」に集中する。 -
相槌のあとに「もう少し聞かせて」と一言添える
「うん、うん」だけでは「本当に聴いているの?」という不安を生みます。「それはどういう状況だったの?」「もう少し聞かせてもらえる?」と言葉を返すことで、部下の話は大きく展開します。 -
話を聴いた後に要約して確認する
「つまり〇〇ということ?」と聴いた内容を自分の言葉で要約することで(オウム返し・ペーシング)、「ちゃんと聴いてもらえた」という実感が生まれます。
どれもシンプルですが、意識して実践し続けることが重要です。傾聴は「センス」ではなく「技術」です。正しいやり方を知り、繰り返し使うことで必ず身につきます。
まとめ:「聴いているつもり」が最大の落とし穴
I君が報告しに来なくなったとき、私は初めて自分の失敗に気づきました。「聴いているつもり」だった私は、メンバーに「聴いてもらえた」という実感を一度も与えられていなかったのです。
話を途中で遮る、答えを先に用意する、体を向けずに「ながら聴き」をする——この3つを手放すだけで、部下からの評価は劇的に変わります。
傾聴力は、1on1の質、チームの心理的安全性、そして部下の離職防止にも直結するスキルです。管理職にとって最も重要なコミュニケーション能力のひとつと言っても過言ではありません。
部下がいきいきと報告に来てくれる職場をつくるために——まず今日から、体ごと向き直ることから始めてみてください。
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田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。傾聴力・コーチング・面接官トレーニング・ハラスメント防止を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。