「叱ったら、パワハラと言われるのではないか」——この不安から、必要な指導すら躊躇してしまう管理職・リーダーが増えています。私が日本能率協会で行っている「効果的な叱り方セミナー」には、毎回多くの管理職の方々が「パワハラと言われたくないので正しい叱り方を知りたい」という思いで参加されます。この記事では、パワハラを恐れすぎて叱れなくなっている方に向けて、正しく叱るための技術を解説します。

この記事でわかること

  1. セミナーで毎回出てくる「叱れない」という悩み
  2. 叱れないことが引き起こす、見えないリスク
  3. パワハラになる叱り方・ならない叱り方の境界線
  4. 正しく叱るための5つのステップ
  5. 叱った後、必ず加えるべき一言
  6. 「叱る」と「怒る」を混同していないか

セミナーで毎回出てくる「叱れない」という悩み

私が日本能率協会で担当している「効果的な叱り方セミナー」には、毎回多くの管理職の方々が参加されます。参加理由を伺うと、共通してこうした声が返ってきます。

「パワハラと言われたくないので、正しい叱り方を知りたいです」
「部下に問題があっても、指摘すると何を言われるかわからず、つい見て見ぬふりをしてしまいます」

この不安は、決して大げさなものではありません。ハラスメントに対する社会の意識が高まる中で、多くの管理職が「叱ること自体がリスクだ」と感じているのが、今の職場の現実です。私自身、これは今、管理職にとって非常に重要なテーマだと考えています。


叱れないことが引き起こす、見えないリスク

「叱らなければパワハラにはならない」——これは半分正しく、半分間違っています。叱らないこと自体にも、見過ごせないリスクがあるからです。

問題行動が放置され、チーム全体に悪影響が広がる
一人の問題行動を見過ごすと、「これくらいなら許される」という空気がチーム全体に広がってしまいます。
真面目に取り組んでいる部下の不公平感につながる
問題行動が指摘されないことで、きちんと業務に取り組んでいる部下ほど「なぜ自分だけ頑張っているのか」と感じ、モチベーションが下がります。
部下自身の成長機会を奪う
改善すべき点を指摘されないまま同じミスを繰り返すことは、部下自身のキャリアにとっても不利益になります。

「叱らない」という選択は、一見リスク回避のように見えて、実は別の形で組織にダメージを与えています。大切なのは「叱るか叱らないか」ではなく、「正しく叱れているかどうか」です。


パワハラになる叱り方・ならない叱り方の境界線

❌ パワハラになりやすい叱り方 ✅ 正しい叱り方
人格・人間性を否定する(「お前はダメな人間だ」) 行動・事実だけを指摘する(「この行動が問題だ」)
大勢の前で叱る 1対1・個室で伝える
感情的に怒鳴る 冷静なトーンで伝える
過去の失敗を何度も蒸し返す 今回の問題だけに絞って伝える
「なぜできないんだ」と詰める 「どうすればよかったか」を一緒に考える

一言で言えば、パワハラになる叱り方は「人」を攻撃し、正しい叱り方は「行動・事実」を指摘します。この違いを理解しているだけで、叱ることへの不安は大きく軽減されます。


正しく叱るための5つのステップ

1
事実を具体的に確認する
「最近、姿勢が気になる」ではなく「〇月〇日、会議で資料の提出が期限に間に合わなかった」という、具体的な事実を確認します。
2
1対1・個室の場を設定する
周囲の目がない環境を用意することが、正しい叱り方の大前提です。
3
事実と影響をセットで伝える
「その行動によって、こういう影響が出た」という結果まで伝えることで、部下は問題の意味を理解しやすくなります。
4
改善策を一緒に考える
「次はどうすればいいと思う?」と問いかけ、部下自身に考えさせることで、改善策が実行されやすくなります。
5
前向きな一言で締めくくる
「一緒に良くしていきましょう」など、条件をつけない前向きな言葉で終えることで、部下は「否定された」ではなく「支えられている」と受け止められます。

叱った後、必ず加えるべき一言

叱った後、暗い空気のまま終わらせてしまうと、部下は「否定された」という記憶だけが残ってしまいます。ここで一つ、注意すべき点があります。「期待しているからこそ言った」という言葉は、使い方によっては「期待に応えられなければ見放される」という無言の脅しとして伝わってしまうことがあります。相手にプレッシャーを与えることが目的ではないため、次のような、条件をつけない言葉を選ぶことをおすすめします。

「一緒に良くしていきましょう」
「困ったことがあれば、いつでも相談してください」
「今回の件、次はきっとうまくいくと思っています」

これらの言葉には、「応えなければどうなるか」という条件が含まれていません。叱られた側の受け止め方は、こうした細部の言葉の選び方によって大きく変わります。「否定された」という記憶だけで終わらせず、「一緒に良くしていく関係である」という感覚を残すことが、次の行動改善にもつながりやすくなります。


「叱る」と「怒る」を混同していないか

多くの管理職が「叱ること」に不安を感じる背景には、「叱る」と「怒る」を無意識に混同していることがあります。

怒る 叱る
自分の感情を発散するための行為 相手の成長・改善を目的とした行為
主語が「自分」(自分がどう感じたか) 主語が「相手」(相手にどうなってほしいか)

「怒る」がリスクの高い行為であるのに対し、「相手の成長を願って行う叱る」は、本来必要な指導行為です。この違いを整理するだけで、「叱ること=パワハラ」という誤解が解けていきます。


まとめ:正しく叱ることは、管理職の責任である

「パワハラと言われないか」という不安は、多くの管理職が抱える切実な悩みです。私が担当する「効果的な叱り方セミナー」に毎回多くの方が参加されるのも、それだけこのテーマが今、切実に求められている証拠だと感じています。

大切なのは、叱ることを避けることではなく、「行動・事実に焦点を当て、成長を願って伝える」という正しい叱り方を身につけることです。この技術があれば、パワハラのリスクを避けながら、部下の成長を支える指導ができるようになります。

📚 若手管理職・リーダーのコミュニケーション悩みシリーズ

第1回:年上部下の扱い方に困っていませんか——年下上司が使える指示・注意の技術
第2回:1on1で部下が話さない——問いかけても口を開かない部下の心理と対応法
第3回:Z世代・若手部下が何を考えているかわからない——戸惑う上司のための理解と対応法
第4回:チャットでは饒舌なのに、対面だと本音を話さない若手部下——このギャップの正体と向き合い方
第5回:叱れない上司の悩み——「パワハラと言われないか」と不安な方への正しい叱り方(本記事)


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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。日本能率協会にて「効果的な叱り方セミナー」を継続的に担当し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。ハラスメント防止・コミュニケーション・傾聴力・面接官トレーニングを中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。