「検討します」「今回は見送ります」——商談で断りの言葉を受け取ったとき、多くの営業担当者はそこで引き下がってしまいます。しかし本当の営業は、断られてから始まります。顧客の「NO」は、多くの場合「絶対に買わない」という意味ではなく、「まだ納得できていない」というサインです。この記事では、断りの言葉を正しく受け止め、「YES」に変えていくクロージングの技術を解説します。

この記事でわかること

  1. 「NO」の正体——顧客の断りには5つのパターンがある
  2. 断られたときにやってはいけないこと
  3. 「NO」を引き出す質問——本当の理由を掘り下げる
  4. 5つの断りパターンへの切り返し方
  5. それでも断られたときの、正しい引き際
  6. クロージングは「詰める」のではなく「不安を解消する」こと

「NO」の正体——顧客の断りには5つのパターンがある

商談で顧客から断りの言葉が出たとき、その裏には必ず理由があります。私が研修で必ずお伝えしているのは、「NO」には主に5つのパターンがあるということです。

価格への
不安
「高い」と感じている。しかし多くの場合、価格そのものより「価格に見合う価値が伝わっていない」ことが原因。
タイミング
の問題
興味はあるが、「今すぐ」ではない。予算のタイミング、社内の優先順位など、時期の問題であることが多い。
決裁権が
ない
目の前の担当者に決定権がなく、上司や別部署の了承が必要な状態。この場合、担当者自身は前向きなことも多い。
競合との
比較
他社と比較検討している最中で、自社の強みが十分に伝わっていない、あるいは差別化ポイントに納得していない状態。
本当に
不要
そもそもニーズがない、または課題が存在しない状態。この場合のみ、本当の意味での「NO」となる。

この5つのうち、本当に「NO」なのは最後の1つだけです。残り4つは、いずれも適切な対応によって「YES」に変わる可能性があります。

求人広告営業時代の体験から

私は求人広告の営業をしていましたが、人材採用のニーズがあるにもかかわらず受注に至らないケースは、私の場合「コスト感覚が合わない」か「担当者に決裁権がない」、ほぼこの2つに集約されていました。コスト感覚が合わない場合は、「いくらまでご予算は可能ですか」と率直にお聞きし、その予算に合わせて広告企画を再提出する。決裁権がない場合は、決裁者がどなたかをお聞きし、そのアポイントをいただいて、上司と一緒に伺う。ここまでやると、たいていは成約に至ります。それでも成約しない場合はあきらめますが、一度断られただけで引っ込むのは、かなりもったいないと感じます。一度断られることも、商談の一つのプロセスとして考えることが大事です。


断られたときにやってはいけないこと

すぐに引き下がる
「わかりました、また改めて」で終わらせると、本当の理由を確認する機会を失います。
無理に説得しようとする
断りの理由を確認せずに、一方的に商品の良さを繰り返し説明することは、顧客に「押し売り」という印象を与えます。
感情的になる、または落胆を態度に出す
断られたショックが表情や態度に出ると、顧客はさらに話しにくくなり、今後の関係にも影響します。

「NO」を引き出す質問——本当の理由を掘り下げる

断りの言葉を受け取ったら、まずやるべきことは「本当の理由」を確認することです。

断りの理由を確認する質問例

「差し支えなければ、見送られる理由を教えていただけますか?」
「もし何か懸念点があれば、率直にお聞かせいただけると助かります」
「もう少し詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

ここで大切なのは、詰問するような口調ではなく、あくまで顧客の状況を理解したいという姿勢で聴くことです。この一言があるかないかで、顧客が本音を話してくれるかどうかが大きく変わります。


5つの断りパターンへの切り返し方

断りの理由 切り返しの考え方
価格への不安 値引きで対応するのではなく、価格に見合う価値・費用対効果を、具体的な数字や事例で再提示する
タイミングの問題 無理に急がせず、「いつ頃なら検討可能か」を確認し、その時期に合わせたフォローの約束を取り付ける
決裁権がない 決裁者への説明資料を用意する、あるいは決裁者との同席機会を提案するなど、担当者が社内で動きやすい支援をする
競合との比較 他社を否定するのではなく、自社ならではの強み・実績を、顧客の課題に即した形で改めて伝える
本当に不要 無理に押さず、丁寧に退く。将来ニーズが生まれたときのために、良好な関係を維持することを優先する

それでも断られたときの、正しい引き際

本当の理由を確認し、誠実に対応してもなお断られる場合があります。そのときに大切なのは、「ここで関係を切らない」という姿勢です。

今回は成約に至らなくても、「誠実に対応してくれた営業担当者」という印象を残すことが、次の機会につながります。「今回はご縁がなかったですが、状況が変わりましたら、ぜひまたお声がけください」——この一言を添えて、丁寧に締めくくることが重要です。


クロージングは「詰める」のではなく「不安を解消する」こと

「NO」という言葉は、営業にとって終わりではなく、本当のコミュニケーションが始まる合図です。断りの裏にある本当の理由を丁寧に聴き、それぞれの理由に応じた誠実な対応をする——このプロセスこそが、クロージングの本質です。一度断られただけで引っ込むのは、かなりもったいない——断られることも、商談の一つのプロセスとして捉えることが大切です。

クロージングとは、顧客を「詰める」ことではありません。顧客が抱えている不安や懸念を、一つひとつ解消していくプロセスです。この視点を持つだけで、断られた後の対応が大きく変わります。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界34年以上、営業・営業マネージャー経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。提案営業力強化・面接官トレーニング・コーチング・ハラスメント防止を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』好評発売中。Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する