「昔はこれが普通だった」「自分の若い頃はもっとひどかった」——セクハラで問題になった方から、こうした言葉をよく耳にします。でも少し立ち止まって考えてみてください。時代は確実に変わっています。1人ひとりが丁寧に扱われる、いい時代になっているんです。その変化についていくために、私たちは自分自身をバージョンアップし続けなければなりません。この記事では、セクハラと世代間ギャップの関係を通じて、その大切さを考えます。
この記事でわかること
- 昔の職場では「普通」だったこと、今はなぜNGなのか
- セクハラと世代間ギャップはなぜ結びつくのか
- 「昔は普通」が通じなくなった3つの理由
- 「昔の自分」から「今の自分」へ——バージョンアップのヒント
- 時代の進化を「味方」にするという発想の転換
昔の職場では「普通」だったこと、今はなぜNGなのか
研修の場でよくこんな声を耳にします。
「女の子に『かわいいね』って言うのは、普通のコミュニケーションだったじゃないか」
「結婚や子どもの話を聞くのは、気にかけてあげているってことでしょ」
「俺たちの頃はもっとひどかった。あれで誰も傷ついてなかったけどなぁ」
これらは、ある世代の方にとって本当にそう感じてきたことだと思います。嘘ではありませんし、その時代の「空気」がそうだったのも事実です。
ではなぜ、今はNGなのか。
答えはシンプルです。「当たり前の基準」が変わったからです。
昔、多くの職場では「我慢することが美徳」「空気を読んで従うのが常識」という価値観が支配していました。傷ついていた人がいなかったのではありません。傷ついても言い出せなかっただけです。言ったところで「大げさ」「冗談も通じない」「気が利かない」と言われるのが怖かった。そういう時代でした。
時代が変わり、「傷ついたと言える」「NOと言える」環境が少しずつ整ってきました。それに伴い、今まで水面下に隠れていた「傷つき」が表に出てくるようになっただけです。今の若い人が過敏になったのではなく、本音が言えるようになっただけなのです。
セクハラと世代間ギャップはなぜ結びつくのか
セクハラの問題が世代間ギャップと深く結びついているのには、理由があります。
人は自分が育ってきた環境・文化・経験を通じて「常識」を形成します。その「常識」は、自分が生きてきた時代に最もフィットするように作られています。だから時代が変わっても、自分の中の「常識」はなかなか自動的にはアップデートされません。
セクハラの多くは、「悪意ある人が起こすもの」ではなく、「アップデートされていない常識を持った人が、気づかずに起こすもの」です。だからこそ、自分の常識を意識的に更新することが不可欠なのです。
「昔は普通」が通じなくなった3つの理由
なぜ今、「昔は普通だったこと」が通じなくなったのか。その背景には3つの大きな変化があります。
1 法律・制度が整い、「言える環境」が生まれた
2020年のパワハラ防止法施行、セクハラへの厳格な対応義務など、法律・制度の整備が進みました。「我慢するしかない」という状況から「声を上げることができる」という環境へ変わったことで、これまで水面下に沈んでいた問題が表に出るようになりました。
制度が変わったのではなく、「傷ついた人が声を上げやすくなった」だけです。昔から傷ついていた人はいた——ただ言えなかっただけなのです。
2 多様性・個の尊重が「当たり前」になった
「みんな違ってみんないい」という価値観の中で育ったZ世代・ミレニアル世代にとって、性別・外見・プライベートで人を括ることは、「個人を見ていない」と感じさせる行為です。
これは「今の若い人が特別に敏感」なのではありません。「1人ひとりを個人として見ること」が当然の権利として認識されるようになった——それだけのことです。そしてそれは、とても良いことです。
3 SNS・情報の広まりで「基準」の共有が加速した
SNSやメディアを通じて、「これはセクハラだ」「これは許容されない」という情報が瞬時に広まる時代になりました。Z世代は特に、自分や周囲の人が不当に扱われた事例をリアルタイムで見ながら育っています。「これはおかしい」という感度が、以前の世代より高く育っているのは自然なことです。
昔の自分のまま、でいいのか——バージョンアップのヒント
さて、ここで正直に自分に問いかけてみてください。
自己チェック——あなたの「常識」は今の時代と合っていますか?
「女性には笑顔で愛嬌があって欲しいと、自然と思っている」
「外見を褒めるのは普通のコミュニケーションだと思っている」
「恋愛・結婚・出産の話を聞くのは、気にかけることだと思っている」
「冗談で言った言葉は、傷つけていないと思っている」
「断らなかったから、嫌ではなかったと思っている」
「昔はこれが当たり前だったんだから、今も大丈夫だろうと思っている」
もしいくつか「そうかも…」と感じた項目があったとしたら、それはとても大切な気づきです。責めているのではありません。気づくことができた、というのはもう変化の第一歩なのですから。
では、どうバージョンアップすればいいのか。難しいことではありません。
バージョンアップのヒント①:「性別で判断しているか」を自問する
何か言おうとしたとき、「この言葉は、相手が男性でも女性でも同じように言うか?」と一瞬考える習慣を持つだけで、多くのリスクを回避できます。「女の子だから」「男だから」という思考が出てきたら、一度立ち止まる——それだけでいいのです。
バージョンアップのヒント②:「仕事に関係があるか」を問う
外見・恋愛・結婚・家族・体型——こうした話題は、業務上の必要性がない限り、職場で触れないのが今の基準です。「気を遣っているつもり」でも、相手にとっては「なぜ言われなければならないのか」という違和感につながることがあると知っておくだけで、行動が変わります。
バージョンアップのヒント③:「笑っていたから大丈夫」を疑う
愛想笑い・曖昧な返事・その場をやり過ごす態度は、「同意」ではありません。特に上下関係がある場合、部下・後輩は「断れない」状況に置かれていることが多い。「断らなかったから嫌ではなかった」という判断は、今の時代には通用しません。
バージョンアップのヒント④:「自分が若い頃の経験」を基準にしない
「俺の若い頃はもっとひどかった。それで乗り越えてきた」——この論理は、今の時代には通用しません。乗り越えてきた人がいる一方で、深く傷ついた人がいたことも事実です。また、過去に誰かが耐えてきたことが、今も続けていい理由にはなりません。基準は常に「今の時代」に合わせて更新されるべきものです。
時代の進化を「味方」にするという発想の転換
「セクハラに気をつけなければならない」「何も言えなくなった」——こう感じている管理職・リーダーの方は少なくないと思います。しかしここで、視点を変えてみてください。
視点を変えてみると
「何も言えなくなった」のではなく、「言ってはいけないことが明確になった」のです。
「気をつけることが増えた」のではなく、「1人ひとりを大切に扱う基準が上がった」のです。
「若い人が過敏になった」のではなく、「傷ついたことを言える時代になった」のです。
時代の変化は、職場を窮屈にしているのではありません。職場で働くすべての人が、より安心して・より自分らしく・より気持ちよく働ける方向への進化です。
その進化についていけるリーダー・管理職が、これからの時代に信頼される人になります。逆に「昔の自分のまま」でいることのリスクは、年々大きくなっています。
バージョンアップは「自分を否定すること」ではありません。「今の時代に合った自分に育てること」です。スマートフォンがアップデートを繰り返して機能を高めるように、私たちの「人への接し方」も、時代に合わせてアップデートし続けることが大切です。
バージョンアップした自分でいることのメリット
✔ 部下・後輩から「この人は安心して話せる」と思われる
✔ チームの心理的安全性が高まり、本音が出やすくなる
✔ 優秀な若手が「この上司の下で働きたい」と思ってくれる
✔ 自分自身がハラスメントのリスクから解放される
✔ 「信頼されるリーダー」として組織に貢献できる
まとめ:「いい時代」の進化に、一緒についていきましょう
昔は当たり前だったことが今はNGになった——それは、職場が「1人ひとりの人間を大切に扱う場所」へと進化した証拠です。
「傷ついても我慢しなければならなかった時代」から、「傷ついたと言える時代」へ。これは弱くなったのではなく、強くなったのです。社会が成熟してきた証拠です。
私たちがすべきことはシンプルです。「昔の自分の常識」に縛られず、今の時代の基準に合わせて、自分をアップデートし続けること。それは難しいことではありません。ただ「気づく」ことから始まります。
時代はよくなっています。その進化を批判するのではなく、ともに進化する側に立ちましょう。1人ひとりが丁寧に扱われるいい時代を、自分たちの手でつくっていく——そのための第一歩が、今日のこの気づきです。
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田中 和義
株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。セクハラ・パワハラ防止・アンガーマネジメント・心理的安全性・傾聴力・Z世代マネジメント・面接官トレーニング・提案営業力強化を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。