「AIで対策してきた学生かどうか、どう見抜けばいいですか」——最近、面接官トレーニングの研修で非常によく寄せられる質問です。生成AIを使えば、誰でも整った自己PR・志望動機を短時間で作れる時代になりました。エントリーシートのクオリティが全体的に上がり、判断が難しくなったという声も多く聞きます。この記事では、AIで事前対策してきた学生の話の真偽を、面接の場で見極めるための具体的なテクニックを解説します。

この記事でわかること

  1. 研修で急増する「AI対策への見抜き方」という相談
  2. AI対策とESクオリティ向上、何が起きているのか
  3. そもそも「AI対策」自体は問題なのか
  4. 本音と模範解答のギャップを確認する質問技術
  5. AI的な受け答えに見られる、いくつかの特徴
  6. 「見抜く」より「深掘りする」という発想の転換

研修で急増する「AI対策への見抜き方」という相談

私が行う面接官トレーニングの研修では、最近こうした相談が非常に多く寄せられます。

「AIで対策してきた学生かどうか、どう見抜けばいいですか」
「エントリーシートのクオリティが全体的に上がって、以前より判断が難しくなりました」

生成AIが普及したことで、就職活動を行う学生の多くが、自己PR・志望動機・想定質問への回答を、AIに相談しながら準備する時代になりました。その結果、文章の完成度・論理的な構成力は、以前より格段に上がっています。これは面接官にとって、新しい課題です。


AI対策とESクオリティ向上、何が起きているのか

AIの活用によって起きている変化を整理すると、次のようになります。

項目 変化の内容
文章の完成度 誤字脱字が減り、構成も整った文章が増えた
想定問答の精度 「よく聞かれる質問」への回答が、事前に高い完成度で準備されている
表現の均質化 「主体性を発揮し」「課題を発見し」など、似たような表現・構成のESが増えた

これらの変化により、「文章の巧拙だけでは、候補者の実際の能力を判断できなくなっている」というのが、多くの面接官が直面している現実です。


そもそも「AI対策」自体は問題なのか

ここで一度立ち止まって考えたいのが、「AIで対策すること自体は、本当に問題なのか」という点です。

AIを使って自分の考えを整理したり、伝え方をブラッシュアップしたりすること自体は、今の時代のビジネススキルの一つとも言えます。実際、社会人になってからもAIを活用して資料作成やコミュニケーションを効率化する場面は増えていくでしょう。問題なのは「AI対策」ではなく、「自分の実際の経験・考えと乖離した、実体のない回答」を丸暗記していることです。

つまり面接官が本当に見極めるべきは、「AIを使ったかどうか」ではなく、「語られている内容が、その人自身の実体験・思考に基づいているかどうか」です。この視点の転換が、対策の第一歩になります。


本音と模範解答のギャップを確認する質問技術

整った回答の奥にある「実体験の有無」を確認するには、次のような質問が有効です。

五感を使った
質問
「そのとき、周りの人はどんな表情をしていましたか」「その場の空気はどんな感じでしたか」——実際に体験していないと答えにくい、五感を伴う具体的な質問です。準備された模範解答には、こうした細部の描写が含まれていないことが多くあります。
数字・固有名詞
を聞く
「具体的に何人のチームでしたか」「その時期はいつ頃でしたか」——具体的な数字や固有名詞を尋ねます。実体験に基づく話であれば、多少時間がかかっても答えられますが、実体のない話は数字の部分で詰まりやすくなります。
失敗・うまく
いかなかった話
「その中で、うまくいかなかったことはありましたか」——成功エピソードだけでなく、失敗や苦労した部分を尋ねます。準備された模範解答は成功体験に偏りがちで、失敗談への深掘りには弱さが出やすい傾向があります。
その場の即興
の問いかけ
「今の話を、もし後輩に説明するとしたら、どう伝えますか」——準備していないであろう角度からの、その場での言い換えを求めます。丸暗記した回答は、こうした即興の応用に弱い傾向があります。
感情を聞く
「そのとき、正直どんな気持ちでしたか」——感情そのものを尋ねる質問です。用意された論理的な回答と違い、感情面の描写は即興性が高く、その場での言葉選びに個人差が出やすくなります。

AI的な受け答えに見られる、いくつかの特徴

すべてに当てはまるわけではありませんが、AIで生成された内容をそのまま暗記していると思われる回答には、次のような傾向が見られることがあります。

・「主体性を持って」「課題解決に取り組み」など、抽象度の高い表現が多い
・話の構成が整いすぎていて、感情の起伏や迷いが感じられない
・深掘り質問への回答が、最初の説明の言い換えにとどまり、新しい情報が出てこない
・「なぜそう考えたのですか」という問いに対して、答えるまでに不自然な間が生まれる

ただし、これらの特徴だけで「AI対策だ」と断定するのは早計です。緊張している、単に話し方が整理されているタイプである、という可能性も十分にあることを念頭に置いてください。


「見抜く」より「深掘りする」という発想の転換

ここで大切な視点があります。面接官が本当にやるべきことは、「AI対策を見抜くこと」自体を目的にすることではありません。

AI対策を「見抜く」のではなく、
どんな回答であっても
「深掘りする」ことに徹する。

これまでも面接官トレーニングで一貫してお伝えしてきたように、行動質問・深掘り質問を徹底することは、AI対策の有無にかかわらず、面接の本質です。「具体的にあなた自身は何をしましたか」「なぜそう判断したのですか」——この深掘りを徹底していれば、AIで用意された表面的な回答は、自然と底が見えてきます。

AI時代だからといって、特別な「見抜くテクニック」を新たに覚える必要はありません。これまで大切にしてきた深掘りの技術を、より一層丁寧に実践することこそが、最も確実な対応策です。


まとめ:本質は変わらない——深掘りの徹底がすべての答え

AIによってエントリーシートのクオリティが全体的に上がり、判断が難しくなったという声は、今後さらに増えていくでしょう。しかし、面接で見極めるべき本質は、AI以前も以後も変わりません。

五感を使った質問、具体的な数字を尋ねる質問、失敗談への深掘り、その場での言い換えを求める質問、感情を尋ねる質問——これらを通して、その人自身の実体験に基づいているかどうかを確認する。この地道な深掘りの積み重ねこそが、AI時代の面接官にとって最も確実な武器です。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。この6年間、面接官トレーニングのセミナー・企業研修を日本全国で展開し、年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。2,000人以上の面接官・経営者へのトレーニング実績を持つ。著書『採用を成功に導く面接官超入門 失敗しない見極め&動機づけの実践スキル』好評発売中。Amazonで購入する 楽天ブックスで購入する