「内定を出したのに辞退された」「複数社に内定が出て、選ばれなかった」——採用担当者・面接官にとって、内定辞退は大きな課題です。しかし内定辞退の多くは、内定を出した後ではなく、選考中にすでに起きていることをご存知でしょうか。この記事では、面接官が選考のプロセスの中でできる「動機づけの技術」を具体的に解説します。

この記事でわかること

  1. 内定辞退が起きる本当の理由
  2. 「見極め」と「動機づけ」の両立が面接官の役割
  3. 選考中にできる動機づけの5つの技術
  4. 面接官がやってはいけないNG行動
  5. 内定後の辞退を防ぐフォローのポイント

内定辞退が起きる本当の理由

内定辞退の原因として多くの企業が挙げるのは「他社に決めた」「条件が合わなかった」といった理由です。しかし実態をよく見ると、条件や知名度だけが理由ではないケースが多くあります。

候補者が内定を辞退する背景には、次のような「感情的な理由」が潜んでいます。

「この会社で働くイメージが持てなかった」
面接で会社の魅力や仕事内容が具体的に伝わらず、入社後の姿をイメージできないまま選考が進んだ。
「面接官の対応が冷たく感じた」
質問攻めで圧迫感があった、話を聴いてもらえなかった、という体験が志望度を下げた。
「自分がここで活躍できるか不安だった」
自分の強みや可能性を面接官に認めてもらえた実感がなく、自信を持って入社を決断できなかった。
「他社の面接官の方が自分を理解してくれた」
競合他社の面接官が丁寧に話を聴き、候補者の可能性を積極的に伝えてくれた。結果として「あちらの会社に行きたい」という気持ちが強まった。

つまり内定辞退の多くは、条件の問題ではなく「感情・体験の問題」です。そして面接官の関わり方が、候補者の感情・志望度に直接影響しています。


「見極め」と「動機づけ」の両立が面接官の役割

面接官の役割を「候補者を見極めること」だけと捉えている人は少なくありません。しかし採用難の現代において、面接は「見極める場」であると同時に「動機づける場」でもあります。

見極め(従来の面接官像) 動機づけ(現代に必要な面接官像)
候補者を評価・判断する
質問して情報を引き出す
合否を決める
企業側が「選ぶ」立場
候補者の可能性を引き出し伝える
会社・仕事の魅力を具体的に伝える
候補者の不安・疑問を解消する
互いに「選び合う」関係をつくる

優秀な候補者ほど複数社から内定を受けます。「強い候補者は常に複数の選択肢を持っている」という前提に立つことが、面接官としての意識を変える第一歩です。


選考中にできる動機づけの5つの技術

1 候補者の話を「最後まで聴く」——傾聴が志望度を上げる

候補者が「この会社の面接官は話をちゃんと聴いてくれた」と感じると、それだけで志望度が上がります。逆に、話の途中で遮られたり、質問攻めで一方的な雰囲気になったりすると、どれだけ条件が良くても「この会社は合わないかも」という感覚が生まれます。

実践のポイント

・候補者が話し終わるまで、どんなに時間がかかっても遮らない
・「それはどういう状況でしたか?」と深掘りして、話を引き出す
・「つまり〇〇ということですね」と要約して確認し、「ちゃんと聴いてもらえた」を体験させる
・うなずき・前傾姿勢・アイコンタクトで「聴いている」を体全体で示す

効果:「この会社の人はちゃんと話を聴いてくれる」という安心感が志望度を高める

2 候補者の強みを「言語化して伝える」——承認が動機づけになる

面接で候補者が話した内容から、その人の強みや可能性を見つけ、言葉にして伝えることが強力な動機づけになります。「この面接官は自分のことをわかってくれた」という体験は、他のどんな会社説明よりも強く入社意欲を高めます。

具体的な言葉の例

「今おっしゃったエピソードを聞いて、〇〇さんには△△という強みがあると感じました。うちの会社ではまさにその力が求められる場面が多いんです」

「その経験は、弊社の□□という仕事に直接活かせると思います。具体的に言うと……」

「今の話から、〇〇さんは▲▲な環境で力を発揮できる方だと感じました。弊社にはそういう環境があります」

効果:「自分の強みをわかってくれた会社」は、条件が似ていても選ばれやすくなる

3 会社の魅力を「候補者の言葉に合わせて」伝える

会社説明を「全員に同じ内容」で伝えていても、動機づけの効果は低いです。重要なのは、候補者が面接中に語った価値観・関心・不安に合わせて、その人に刺さる魅力を伝えることです。

パーソナライズの例

候補者が「チームで成果を出すことにやりがいを感じる」と言った場合
→ 「弊社では〇〇というプロジェクトでチームが一体になって△△を達成した事例があります。あなたが話してくれたやりがいと重なると思いました」

候補者が「成長できる環境を求めている」と言った場合
→ 「弊社では入社後○年で□□のレベルまで成長できるキャリアパスがあります。実際に▲▲さんというケースがあって……」

効果:「自分のために話してくれている」という実感が志望度を大きく引き上げる

4 候補者の「不安・疑問」を面接中に引き出して解消する

候補者は入社に対してさまざまな不安や疑問を抱えています。しかし多くの場合、候補者はそれを面接官に言い出せないまま選考を終えます。不安が解消されないまま内定を受けると、「やっぱり不安だから辞退しよう」という判断につながります。

不安を引き出す質問例

「弊社や今日の面接を通じて、気になっていることや不安に感じていることはありますか?」

「入社後のことで、率直に聞いてみたいことはありますか?どんなことでも構いません」

「今、他にどんな会社を検討していますか?差し支えなければ聞かせてください」(競合状況の把握にも有効)

候補者が不安を打ち明けてくれたら、誠実に・具体的に答えることが重要です。「不安を話しても大丈夫だった」という体験自体が、信頼感と志望度を高めます。

効果:不安の解消が「入社への踏み出し」を後押しする

5 面接の最後に「期待」を伝える——クロージングの言葉

面接の終わりに何を言うかが、候補者の志望度を左右する最後のポイントです。「本日はありがとうございました。結果は追ってご連絡します」で終わる面接と、候補者への期待を言葉にして伝える面接とでは、候補者が面接後に感じる印象が大きく異なります。

クロージングの言葉の例

「今日お話を聞いて、〇〇さんの△△という経験や視点は弊社にとって非常に魅力的だと感じました。ぜひ一緒に働きたいと思っています」

「〇〇さんが話してくれた□□という考え方は、うちのチームに必要なものです。次のステップでまたお会いできることを楽しみにしています」

「もし選考が進んだ際には、今日話してくれた▲▲の部分をさらに深く聞かせてください。それだけ興味を持っています」

効果:「この会社は自分を必要としてくれている」という実感が辞退の歯止めになる


面接官がやってはいけないNG行動

動機づけを高める行動がある一方で、志望度を一気に下げてしまうNG行動があります。以下は特に注意が必要なものです。

圧迫面接・高圧的な態度
「なぜその程度の結果しか出せなかったんですか」など、候補者を追い詰める質問や態度。見極めのつもりでも、志望度を大幅に下げ、辞退・口コミによる評判悪化につながる。
スマートフォンやパソコンを見ながら面接する
「この会社は候補者に関心がない」という印象を与える。たとえ業務上の確認であっても、候補者には「話を聴いてもらえていない」と伝わる。
全員に同じ「マニュアル的な会社説明」をする
候補者は複数社を受けており、各社の会社説明を比較している。どこでも聞けるような内容を一方的に話しても印象に残らず、動機づけにならない。
候補者の話を遮って自分の意見・経験を話す
「それは私も同じで……」と自分の話にすり替える。候補者は「自分の話を聴いてもらえなかった」と感じ、この会社・面接官への信頼を失う。
選考結果の連絡が遅い・対応が雑
「連絡します」と言ったのに連絡が遅れる、メールが事務的すぎるなど、選考後の対応が候補者の志望度に直結する。他社から内定が出た瞬間に辞退されるリスクが高まる。

内定後の辞退を防ぐフォローのポイント

動機づけは面接中だけで完結するものではありません。内定を出した後のフォローも、辞退防止において非常に重要です。

  • 内定後すぐに「個別メッセージ」を送る
    「内定のご連絡」という事務的なメールではなく、面接で話した内容に触れた個別メッセージを添えることで、「あなたのことをちゃんと見ていた」という誠意が伝わります。
  • 内定承諾期間中に「不安を聞く機会」を設ける
    「決断にあたって気になっていることはありますか?」と連絡することで、候補者が抱えている不安を早期に把握し、解消する機会を作ります。不安を放置すると辞退につながります。
  • 社員との「非公式な接点」をつくる
    入社後に一緒に働くことになる社員と話せる機会(懇談会・社員訪問など)を設けることで、「一緒に働くイメージ」が具体化し、入社への安心感が高まります。
  • 「あなたを待っている」というメッセージを継続的に届ける
    内定から入社までの期間、定期的に近況確認や情報提供を行うことで、「この会社との縁」を感じ続けてもらえます。長期間放置すると気持ちが離れていきます。

まとめ:面接官は「選ぶ人」から「選ばれる人」へ

採用難の時代において、面接官の役割は大きく変わっています。候補者を一方的に「見極める」だけでなく、候補者に「この会社で働きたい」と思ってもらえるように動機づけることが、現代の面接官に求められるスキルです。

最後まで話を聴く、強みを言語化して伝える、会社の魅力をその人に合わせて伝える、不安を引き出して解消する、期待を言葉にして伝える——これらはすべて、今日の面接から実践できることです。

内定辞退を減らすことは、採用コスト・時間・組織の成長に直結します。面接官一人ひとりが「動機づける技術」を持つことが、採用力の強化につながります。

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田中 和義

田中 和義

株式会社エス・シー・ラボ 代表。人材ビジネス業界35年以上、管理職経験25年以上。年間170回以上の企業研修・講演を行う実践派講師。面接官トレーニング・傾聴力・コーチング・ハラスメント防止を中心に、現場で使えるスキルの習得を支援している。